レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第50回『デジタル・クライシス白書-2021年5月度-』

開催日時:2021年05月26日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

前薗 利大(まえぞの としひろ)

シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 研究員 2011年、シエンプレ株式会社に入社。 桑江の元で多くの案件に携わり現場を経験した後、 代理店担当としてアサツー・ディ・ケイなどとの協業で、 官公庁の他、日本を代表する大企業のリスク対応を多く担当している。

「差別」と受け取られかねない発信内容は避ける

桑江:まずは、大阪の士業団体の炎上事例から紹介しましょう。頭髪の少なさを強調した宣伝用のチラシとポスターを製作したところ、会員から「身体的特徴を取り上げるのは不適切だ」との指摘が相次ぎ、謝罪した上で回収しました。

※出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/b73bb5c73a3c716eb1a19ed35d2c5cafbe440690

前薗:宣伝物に起用された有名フリーアナウンサーは頭髪が少ないことをネタにされている方ではありますが、コンプレックスに絡む広告は非常に危ういんですね。最近の炎上のトレンドの1つであるジェンダー問題にも近く、多くの方が非常にシビアな目で見てらっしゃいます。

桑江:本人ではなく、それを見た周りがどう思うかがポイントだと思います。今回の件もフリーアナウンサー自身は了承した上で起用されたと思いますが、それを見た人たちが不快に思えば炎上や批判につながるということなので、クリエイティブの観点ではそうした注意も必要でしょう。

前薗:今回の件は、過去の類似の炎上事例をしっかり認識されていれば防げたと思います。特にセンシティブな相談を受ける可能性がある士業団体の方々がこのようなポスターを安易に作ったということで、より印象を悪化させてしまったのではないかと推察しています。

桑江:続いては、在中国米国大使館ビザ課の微博(ウェイボー)公式アカウントが炎上した件です。犬が犬用サークルから身を乗り出す映像とともに学生ビザ申請の再開を告知したところ、「中国人留学生を犬扱いしている」と批判されました。
もちろん、大使館側にそういう意図はなかったはずですが、そう受け止められてしまったというのは、Twitter上でもよくある失敗例のようにも見えます。

前薗:こうした事例は、過去も枚挙にいとまがないパターンです。人を何かに置き換える投稿は炎上リスクのある発信手法であることをご理解いただきたいと思います。
大使館側は「早く外に出て楽しみたいですよね」というメッセージを発信したかったのでしょうが、動物や虫などに例えるときは一定の批判を受けてしまう可能性があるということは気を付けていただくべき点ではないでしょうか。

どんな指摘を受ける可能性があるか? リスクシナリオが不可欠

桑江:次は、100円ショップの固形燃料を使ってパンなどを直火焼する写真を添えた記事を掲載したアウトドアメディアに対し、キャンプ愛好者から「固形燃料に含まれるメチルアルコールが体内に入ると失明する危険がある」との指摘が相次ぎました。
オウンドメディアを運用されている企業も増えていると思いますが、記事の作成自体を外注しているケースだと、このようなリスクが発生する可能性があります。
オウンドメディアに限りませんが、自社で発信する内容はしっかり精査し、危険性がないかをチェックしなければならないと思います。

※出典:https://www.j-cast.com/2021/04/26410352.html

前薗:安全性の確認に加え、どんな指摘を受けるか可能性があるかというシナリオの準備が十分だったら防げた炎上かと思っています。一方、謝罪文を読むと、第三者にしっかりと意見照会をして「こういった見解を得ている」という反論も一部でされています。
「SNSの声を受けてきちんと対応していますよ」ということを示すリリース文にはなっているので、こちらは及第点かと思います。

桑江:メディア関連でいくと、テレビの情報番組で紹介された「子供用ハーネス」を巡り、「まるでペットのようだ」「親は子供を守るのに必死」との論争が巻き起こりました。これを受け、Twitterでは「子供用ハーネス」がトレンド入りしたところです。
自社の商品・サービスをテレビ番組で取り上げてもらう機会もあると思いますが、取り上げ方次第ではブランドに傷がついてしまうことも十分起こり得ます。リスクヘッジとしては、どのような形で触れられるのかをしっかりウオッチしてコントロールする必要があります。

※出典:https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6085f3dae4b02e74d21b455f

前薗:お子さんとペット関連は価値観が多様化していますので、商品のPRや宣伝、メディア露出を含めてポジティブな反応だけで乗り切れることは、ほぼないと思います。
それらの業界に関連する対外発表や商品・サービスは批判的な声も受けやすいということを念頭に置き、リスクシナリオをご用意いただくのが良いと思います。

Twitterトレンドのワードを妄信してはいけない!

桑江:続いてもメディア関連ですが、人気女性誌がWebサイト上で「パパ活」推奨コラムを掲載したところ炎上しました。「どうしたらパパ活が成功するか」というネガティブな印象の内容に加え、1988年創刊の歴史ある女性誌でこのような記事が載ったことに疑問の声が上がりました。
実は、この女性誌は2021年4月に大手出版会社からITベンチャーに事業譲渡され、発行元が変わった直後の炎上でした。SNSでは「アクセスを増やして広告収入を増やせばいいと思っていそう」という反応もありましたが、これはここ数回のウェビナーでも取り上げてきら「コタツ記事」にも共通する部分かと思います。
「とにかくアクセスを稼ぎたい」「安い単価で記事を量産すればいい」というWebメディアならではの運営方針も影響していたかもしれません。

※出典:https://sn-jp.com/archives/37879

前薗:コロナ禍において、Twitter上などではいわゆるセックスワーカーへの批判もあります。そうした文脈で「パパ活」という言葉も使われている中、こうしたコンテンツを上げることへの批判的な声があったのではないでしょうか。
3度目の緊急事態宣言下で社会・経済の厳しさが増すとの見方が広がった中でのコンテンツということもあり、批判的な声がより集まりやすかったと捉えています。

桑江:Twitterトレンドのワードをうまく取り込んでSNSなどを運用するケースもあると思いますが、そのワードに触れていいかどうかはしっかりと吟味する必要があります。
「パパ活」は良くも悪くも話題性がありますが、それを使うべきなのか、使ったときにどのような反響があるのか、しっかりと認識した上で判断しなければなりません。その辺りも少し安易だった気がします。

前薗:そうですね。

「世間の目」の移り変わりに気付くことが重要

桑江:さて、再び中国の事例です。現地のモーターショーで展示された米国メーカーの電気自動車の屋根に女性が登り、「ブレーキが利かない」と大声で叫びながら安全性に抗議する騒ぎがありました。その際に見物人らが撮影した動画がネット上に出回ったことで女性の主張が拡散され、中国国内ではこのメーカーへの批判が強まりました。
このように目立つ場所で何らかの主張をし、その様子を撮影した人がSNSなどで拡散するということは日本でも起こっています。

前薗:この騒ぎを契機に、日本国内のオーナーも「自分もこんな目に遭った」とTwitterに書き込んでいて、それらのリツイートが回ってくるケースが増えている印象です。
「#MeToo」運動ではありませんが、何かの出来事が炎上した場合は、「実は私も」という形で被害が拡散されていくパターンが広がりつつあると思います。

桑江:次の炎上事例は、コンテンツ有料配信サイトのコラムに関してです。幼馴染みの14歳女子が性暴力やDVを受けているという中学3年女子の読者からの悩み相談に対し、筆者の写真家は「若いなぁ」などと軽いノリで「自己責任」を強調しました。
このコラムには昨年から何度か批判が出ていましたが、今回もまた「問題の深刻さが全く分かっていない」「このアドバイスはひどい」といった批判が相次ぎました。
ただ、そもそもこのコラムが人気コンテンツになった理由は、質問者の悩みを一刀両断するところにありました。
要するにコーナーの趣旨、スタンス自体は以前とあまり変わっていないのですが、昨今の質問内容がセンシティブで、それに対する理解も足りないと思われる回答が目を付けられてしまい、炎上しやすい状態になっていたのは事実かと思います。

※出典:https://news.nifty.com/article/domestic/society/12184-200117618/

前薗:毒舌キャラでウケていた著名人が一歩踏み込み過ぎて、ないしは毒舌の対象を間違えたことでバッシングされてしまうケースはネット炎上が騒がれる前から存在していて、今回の事例はまさにそれに当てはまると思います。
ここ1年くらいの間で、この筆者に対する「世間の目」が変わっているということをサイト側が把握し、軌道修正をするか掲載内容を調整するかといった工夫が必要だったのではないでしょうか。結果的に、アンチの方々の声を起こしてしまったと捉えることができると思います。

不祥事対応での「言い訳」が事態を悪化させる

桑江:続いては、音楽・映像事業会社の会長のInstagramの裏アカウントが発覚した件です。スーパーカーを買い漁るのを自慢したり、庶民を小ばかにしたりするような文言を添えた投稿をアップしていました。
オープンにできない話題を扱うことが多い裏アカウントが暴露されることは起こり得ます。企業トップの裏アカウントが問題となった場合、自身がその会社の広報担当だったらどうするかというのは悩ましい部分です。

※出典:https://www.dailyshincho.jp/article/2021/05100500/?photo=3

前薗:オーナーや会長を諫めるというのは、なかなか難しいでしょう。ただし、広報担当者としては、会長、社長個人のことで会社そのものが批判される可能性もあると認識することが重要です。水面下では、万一の場合を想定したリスクシナリオや発表内容などを決めておくべきだと思います。

桑江:大手ドラッグストアチェーンの秘書が会長夫婦に新型コロナウイルスのワクチンを優先接種させるよう市役所に要求していた件では、リリースしたお詫び文は言い訳と取られるような内容になっていました。
しかも、それらの言い訳は週刊誌などが把握していた事実と異なっていたことから、さらなる炎上を招いてしまったところです。
お詫び文を出す場合は少なくとも、裏を取られれば分かってしまうような言い訳はご法度ですし、以前のウェビナーでも説明したように広報と法律の両方の視点が必要になります。

※出典:https://news.yahoo.co.jp/articles/f064efbdf783c335d2c7707c56415506be7641cc

前薗:今回の事例では「上級国民」という批判もぶり返してしまっていたので、広報としては炎上事案としての対応が迫られたのではないかと見ています。

桑江:コロナ関連では、大勢での会食を批判していた立場の人が自らそのような場に参加していたことが発覚し、猛批判を浴びることがあります。過去の自身の言動が掘り返されてカウンターアタックを受けた場合は、平謝りするしかないと思いますが。

前薗:しっぺ返しを食らう可能性が十分あるということは、常に考えておかなければならないということですね。言行一致が大事ということかと思います。

炎上リスクのチェックに欠かせない複数の視点

桑江:最後に、以前より視聴者、読者、その他オーディエンスがネガティブに傾きやすく、繊細になっている状況で、発信するネタの発掘、記事化の際に気を付けるべき視点や規定づくりのアドバイスはありますか。

前薗:100%の人にポジティブに受け止められ、賛同を得られるコンテンツは恐らくないと思います。いろいろなパートナーさんやクリエイティブを制作している方と会話をすると、1つの批判的な意見を傾聴し過ぎてプロジェクトが進まないということが多くありますので、まずはそれを前提にしていただきたいですね。
こういう発信、企画をしたいと思ったときは、過去の炎上事例に当てはめていただくのが良いでしょう。あとは、出来上がったものを関係各所だけではなく複数人、性別や年齢を超えた方々で確認すると、リスクは最小化できるのではないかと思います。
また、規定づくりは常にブラッシュアップしていくことを前提に、直近1年間の炎上事案に基づいてチェックする体制に重きを置いていただくのが良いのではないかと思います。

桑江:我々も1人だけでは判断しないようにしています。性別も年代も異なる複数の目でチェックする体制が必要です。
とは言え、ネタをタイムリーに使いたいという観点でいくと、実際に投稿しよう、触れようとしているテーマでYahoo!のリアルタイム検索をすると自動でネガティブ、ポジティブの割合を見ることができます。
これは参考値くらいにしかならないのですが、その時点でネガティブが多い場合は絶対に止めた方がいいので、その点では十分に使えるのではないかと思います。