レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第71回『SNSの価値を社内で理解させるための方策』

開催日時:2021年11月10日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

吉田 啓介(よしだ けいすけ)氏

2020年5月よりカラビナハート株式会社に入社。 ロッテ社など10社ほどの企業SNSアカウントのコンサル・運用支援を行っている。公式アカウントのフォロワー増や投稿のノウハウだけではなく、目的に合わせた目標設計やビジネス貢献の可視化、再現性ある仕組み作り、SNS担当者のトレーニングが得意領域。 2020年4月までは株式会社すかいらーくHDのマーケティング本部にてコンテンツコミュニケーションチームのリーダー。7つの公式Twitterアカウントを立ち上げて合計210万フォロワーに。広告宣伝のほかアプリ、メルマガ、公式サイト、ファン施策、ポイントプログラムなどを担当した。店舗勤務含めて15年間在籍。

売上などの可視化が欠かせない効果検証

桑江:SNSの価値を社内で理解してもらうためには、企業の公式SNSの効果検証が求められると思います。かなり難しいことですが、どのようにすればいいのでしょうか。

吉田:事業会社としては、非常に大きな悩みかと思います。企業の担当者が「企業のSNSは大事だから始めた方がいい」という話をしても「どれくらい売上が上がるの?」「どんな価値があるの?」という議論になりがちです。
ただ、SNSは「売上がこう動いた」という事例がまだ少ない上、そもそも効果を可視化しにくいプラットフォームなので、予算や組織をつくりにくいということが課題でしょう。
もちろん、売上額の確かな効果などは証明できません。しかし、SNSはデジタルの領域なので、概算式で分かる数字もたくさんあります。多少強引でもいいので、何かしらの数字を可視化して社内にレポートしていくことがとても大事だと考えています。

桑江:数字を示しながら「こういう効果が期待できそうです」といった話をしていくということですね。

吉田:概算式で設定した目標値、いわゆるKPI(重要業績評価指標)と呼ばれるものをクリアできたら「見えないゴール」もクリアできていると見立てていけば、経営陣などを説得しやすいと思います。

桑江:SNSの効果検証に関するKPIは、どのように決めたらいいのでしょうか。

吉田:大きく分けると2つあります。一番単純なのは、過去の実績を基に計算することです。分かりやすいのは、フォロワー数の推移やフォロワー数に対するインプレッション、エンゲージ数などをどのくらい成長させていくかを決めるのが一般的でしょう。
また、SNSに割り振った年間の売上目標から逆算して、その額を達成するためには何人に情報を届ければいいのか、何人にアクションしてもらえばいいのかを組み立てるパターンもあります。

桑江:なるほど。

社内提案時や目標管理に活用できる概算式

吉田:これらの数字をつくるときに活用できるのが、概算式というものです。ビジネスモデルによって考え方が違うと思いますが、飲食店の場合は来店客数の見込みで計算します。
飲食店に入った人が何も食べずに出ていくというケースは基本的に考えられないので、来店客数を確認しましょうということですね。
僕が作った概算式は「来店客数=インプレッション数×来店率×純増率」。インプレッション数はSNSでつくり出す数字です。
肝心なのは来店率をどう見込むかで、僕が使ったのは某広告プラットフォームのバナー広告におけるGPS来店計測の実績。それを見れば、バナー広告を目にした人のうち何人来店してくれたかがおおよそ分かるので、そのパーセンテージをTwitterにも適用しました。
純増率は媒体を超えたフリークエンシー(ユーザーが広告に接した回数)を指します。
「Twitterを見て来店した人」は「Twitterだけを見て来店した人」とは異なるので、例えば100人の来店があるとしたら、うち4割くらいをTwitterの効果による純増率として見ましょうと決めることが大事です。

桑江:他のビジネスモデルはいかがですか。

吉田:ECの場合はお客さんを直接売り場に連れていけることから、もっと分かりやすいと思います。概算式で出せるSNSの売上高は「ECリンククリック数×平均単価×購入率×純増率」です。店に連れてきたことが分かっているので、純増率は店舗型より高くてもいいでしょう。
購入率は、これまでのデジタル広告からの購入率を当てはめれば、はじき出せると思います。
店舗型やECより分かりにくいのはメーカーさんで、日々の精緻な販売数を出すのは難しいのですが、商品インプレッションに購入率と平均単価純増率を掛ければ出てくると思います。
購入率は過去の広告媒体の効果や、商品を何人に見せたら何人が購入してくれるというおおよその数字を算出して掛け算をすれば、説得力のある式をつくれるはずです。
また、口コミ投稿数が多い事業やブランドで生かせそうなのが、口コミ数を基準にした考え方。口コミ投稿数が1,000件あったときの商品販売数が分かれば、口コミ投稿数が2,000件になったときの商品販売数を逆算的に推し量れるかと思います。

桑江:そのような概算式を使えば、目標値の管理や経営陣への説明がしやすくなるということですね。

吉田:ただ、概算式はあくまでも概算なので、ポイントごとに答え合わせが必要になってくるでしょう。その場合、サーベイでの定性調査やバナー広告など類似施策の数値を当てる、SNSで告知したサービスや商品の売上推移を見るといった方法が考えられます。
ただ、お金や労力などのリソースがかかるため、あえて答え合わせをせず、お客さんに情報を届けることに専念する企業も多いですね。
実際、Twitterはお客さんとの会話なので、何でもかんでも数値化するのが本来のゴールではないと思います。
概算式は経営陣や会社にSNSの価値を可視化して信頼を得るための1つのアクションで、信頼できる数字を出すことで「担当者に自由に運用させてください」というのが最終的な目的であるいうことです。

企業アカウントの炎上確率はわずか7%

桑江:SNSの炎上リスクには、どのように向き合えばいいのでしょうか。

吉田:SNSの効果は見えにくいのですが、炎上リスクは非常に想像しやすいと言えます。データによると、企業の炎上理由は顧客からのクレームが40%で、コミュニケーションのミスや不祥事などが起点になっています。
ただし、企業の公式アカウントによる発信が原因となった炎上は、全体のわずか7%しかありません。本来のサービスやバイトテロ、顧客情報の漏洩などの方がよほど炎上の要因になりやすいのが実態です。

桑江:公式アカウントの有無は、あまり関係がないと。

吉田:公式アカウントの炎上理由は、基本的に運用のルールが明確化されていないからではないかと想像されます。個人の判断で投稿や返信、管理をした結果、炎上が起きているという印象です。
炎上予防のために企業がすぐにできることとして挙げられるのは、投稿時間などのルールを決めることですね。本人がいつでも自由に投稿していいルールになっていると、勤務時間後にお酒が入った状態で不適切な投稿をしてしまうかもしれません。
自分が住んでいる地域以外で災害などが発生した際の発信内容に配慮できるかどうかもリスク回避のポイントだと思います。

桑江:そうですね。

吉田:企業が何らかの理由で炎上したときは「説明の場」が必要になります。原因と対策についてのプレスリリースを出してもなかなか広まりにくいですし、それらを自社サイトで発信したところでしっかり読んでくれる人は極めて少ないでしょう。
そうしたとき、誰にも加工されない言葉で事実を発表し、炎上の火消し役として活用できるのはSNSの公式アカウントだけです。

桑江:外食産業などの企業が公式アカウントを運用する際は、いわゆる「バイトテロ」のリスクも想定した炎上防止対策を整えなければならないかと思います。

吉田:特に飲食店には小さなクレームがたくさんあり、それが大きくなると炎上するのですが、店舗でどう対応するかというノウハウはかなり持っています。それをSNSでも生かしましょうということですね。
炎上を起こさないためにどういう行動をするか、あるいはもし炎上リスクになりそうなことが発生したときは、どういう対応をして炎が大きくならないように抑え込むかというマニュアルをしっかりつくり、従業員にも「こういう対応をします」ということをきちんと伝えるのが大事でしょう。
最近は、アルバイトと雇用契約を結ぶ段階で「個人のSNSアカウントで会社、店舗の情報を発信しない」という約束を取り付ける飲食店が増えていると聞きます。

SNSは「情報の発射台」としても効果的

桑江:売上・客数増がゴールではない持ち株会社の場合、「なぜSNSの公式アカウントが必要なのか」という社内論議が巻き起こることもあるかと思います。サスティナビリティーな取り組みを中心に発信していくとしたら、どのような意義があると考えるべきでしょうか。

吉田:そうした取り組みであれば、何人に情報を届けたかというのが重要な指標になると思います。つまり、取り組み自体を多くの人に知ってもらうのが第1段階です。
第2段階では、取り組みをしていることで好感度が上がったという証明ができればいいと思いますが、好感度調査までするとなると費用などがかかってしまうので、SNSは自社の取り組みに関する「情報の発射台」として活用すればいいと捉えています。
同じ情報を広告として1万人に届けると、それなりのコストがかかるはずが、公式アカウントならゼロ円で済むと考えれば、そのように役立てるに足りる理由となるのではないでしょうか。

桑江:いわゆる広告費換算ですね。そういう意味では、PRに近いところもありそうです。

吉田:例えば、ブランドの公式アカウントにも、企業としての取り組みや世の中への貢献姿勢を伝えたいという狙いがあります。そうした場合も、何人に情報が届いているかということにSNSの価値を見いだしていますね。
本来なら好感度などの数字も出せると思いますが、調査にかかる費用の重さを考えると、取り組みの見せ方を効率化できれば十分と捉えた方がいいでしょう。

桑江:反対に、「売上・客数増がゴール」という考え方が根強い企業の上層部にSNSの本質的な価値を理解してもらうのも難しいのではないかと思います。

吉田:そうした状況下で、何かしらの数字を可視化した方が話は早いだろうと考えて作ったのが概算式です。平たく言えば、概算式は経営陣に理解してもらうための効果指標ということになります。
ただし、それはあくまでも表向きの見え方です。本質的なSNSの価値は担当者が心に持ち続けて取り組むという方法が、運用の効果を発揮する一番の近道でしたね。