レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第7回『鹿毛康司氏が考える「新型コロナ下でどんなコミュニケーションをするべきか?」~思考停止で手法に頼る人は炎上する~』

開催日時:2020年06月24日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

鹿毛 康司(かげ こうじ)氏

株式会社かげこうじ事務所 代表取締役。 クリエイティブディレクター、プロフェッショナルマーケター。 雪印乳業を経て、2003年にエステー株式会社に宣伝責任者として入社。 2011年震災直後の「ミゲル少年と西川貴教の消臭力CM」で社会現象を巻き起こすなど、同社を日本有数のコミュニケーション力のある企業へと導いた。 YouTubeがまだ生まれていない2003年に動画配信、2006年のツイッター黎明期に「中の人」を始めるなど、その時代の新しいツールをとりいれてマーケティング手法の開発もおこなってきた。 エステー株式会社執行役を経て、2020年6月事務所を設立。 現在は、エステー㈱コミュニケーションアドバイザーの他、グロービス経営大学院准教授、日経クロストレンド アドバイザリーメンバー、Add-tech東京ボードメンバーなどを務める。 著書:「愛されるアイデアのつくり方」(WAVE 出版)ほか。受賞:マーケターオブザイヤー (MCEI),WEB人貢献賞、ACC 、GOLD、フジサンケイ広告大賞(TVCMクリエイティブ優秀賞、ラジオ最優秀賞)、Ad-tech Tokyo セッション1位など。

心にボールを投げた「日常」のCMが好感度1位に

桑江:CM総合研究所の調査によると、2020年2月27日に政府が全国の小・中・高校や特別支援学校に臨時休校を要請したのを境に、ACジャパンのCM出稿が急増したことが分かります。4月1日、2日はそれぞれ111回、118回を数え、翌日から減少しましたが、緊急事態宣言が発令された4月7日からは再び増加に転じました。
東日本大震災発生直後ほどではなかったものの、業種や表現によっては出稿を控えられたCMが多かったことがうかがえます。
このような情勢に合わせて、CMのメッセージにもさまざまな変化が見受けられました。
大阪のテーマパークは臨時休園中であることを表記したCMを展開し、大手生命保険会社のCMには新型コロナウイルス感染者が保険の対象であることを伝えるテロップを表示。また、大手通販会社は「今だから気付けること」をキーワードに、有名ミュージシャンが医療関係者へのねぎらいや体調管理の徹底を語り掛けるCMを放送するなどクリエイティブ面でも変化が確認されています。
そうした中、2020年5月度の業類別CM好感度では、鹿毛さんが制作されたA社の防虫剤のCM(4月6日放送開始)が生活雑貨部門のナンバー1に輝きましたね。

鹿毛:3年前に生活雑貨部門だけではなく、日本全体で一番になったCMです。これは、このままで大丈夫だろうということで放送しました。「日常」のCMというのがポイントですよね。

桑江:4月13日には、A社の消臭剤のCMも放送が開始されました。

鹿毛:2月下旬に企画し始めたのですが、そのときはすでに事が起こっていて、いろいろなイベントが中止されていました。
そういう状況の中で何を伝えればいいのかと考えたのですが、このCMはイメージCMではありません。「企業理念、空気を変えよう」という思いと、そのときの心を結び付けたものです。作詞・作曲も僕が担当したのですが、このときは「これから」と思いました。

桑江:「空気を変えるぞ」というのは、今だからこそ、新型コロナの影響下だからこそというメッセージとして強く伝えたということだと思いますが。

鹿毛:新型コロナによって人の心が変わる、その人に心にボールを投げるということなので、コロナについては一切言っていません。他のCMは新型コロナのことを言っていますが、実は、そこには触らないようにしました。だから、本当はこれも「日常」のCMということですよね。

桑江:なるほど。

コロナ禍だから「頑張ろう」と言い出すのは思考停止

鹿毛:防虫剤のCMはバカバカしいように見えるかもしれませんが、「人はクローゼットに虫がいるのが嫌だ。でも、きれいに片付けるのは遠くから見守って任せたい」という心理を突きました。それによって、この商品が必要だと思わせることをイメージしたわけです。
ただし、イメージはイメージではつくれないので、きちんと形成しなければいけないと思いました。それを広告会社に丸投げするのも良くないと考え、僕もクリエイティブまで含めて携わったのがこのCMです。

桑江:そうだったのですね。

鹿毛:コロナ禍が起きたからその話をするというのは思考停止です。今まで何もしていなかった企業が、有事の際に取って付けたように「頑張ろう」「応援しよう」と言い出すのは気持ちが悪いと感じます。表面上の志だけで制作されたCMは、好感度ランキングも全く上がりません。

桑江:実際に調べてみたところ、本当に上がっていないんですよね。

鹿毛:世間の人はちゃんと分かっています。好感度とは、記憶に残るかどうかです。つまり、好感度が低いCMは無視されているのと同じ。企業は自社の仕事によって存続できますが、コロナ輪禍の中での変化や現状をしっかり謳っているCMは素晴らしいと思います。

桑江:企業としての志を感じられるということですね。

鹿毛:一番難しいのは「日常」のCMです。CMは単なる商品説明ではなく、企業の姿勢までも全部含められます。だから、みんな怖がるということですよね。
経済行動学では、人間は本人も意識していない心理によって行動することが大半だと言われています。平時は何も問題がなくても、コロナ禍のような状況が起きたときにCMが炎上するのは、人間は経済合理性では動いていないから。そのリスクは論理的に説明できないため怖がられるのですが、人の心というものをしっかり見ればいいのだと思います。

桑江:そうですね。

企業CM急減の要因は「どうしていいか分からなくなった」から?

鹿毛:コロナ禍でACジャパンのCM出稿が増えたという話がありましたが、その理由は3つ。1つ目は、企業のお金がなくなったといった経済的な要因でCMを取り下げるしかなくなった。2つ目は、CMの演出が三密状態などあまりにも新型コロナと離反するものだった。そして最後は、新型コロナの対応をめぐってさまざまな意見がある中で、どうしていいか分からなくなったということです。
テレビのスポットCMはコロナ禍以前の6割ほどになってしまったとも言われていますが、放送すべきかどうかという決断ができなかったのでここまで減った可能性があります。
東日本大震災のときも「不謹慎だ」ということになり、ドンと落ち込みましたね。

桑江:どうしたらいいのか困り、思考が停止してしまったと。

鹿毛:震災直後のTwitterには「頑張ろう」「応援しよう」という言葉がたくさん出てきましたが、それをそのまま言葉にしようとは思いませんでした。
その裏側に何があるのか。答えはありませんが、みんな笑いたいと思っていると考えました。父の葬式に親戚が集まって、お母さんたちがニコニコしていたのですが、それはうれしいから笑っていたのではなく、心のバランスを取るため。それと同じように、消臭剤がある「日常」を堂々と伝えようと思ったのです。
それを考えたのは震災から3日後。CMを制作したのは2週間後です。怖かったのですが、みんな分かってくれるのではないかと思いました。

桑江:そんな経緯があったのですか。

鹿毛:震災の後、僕が初めて制作して放送された商品CMでした。映像の背景は1755年の地震による津波で6万人余りが亡くなったポルトガルのリスボンですが、それについては何も言及しませんでした。一企業が言う必要はないと思ったからです。
でも、みんなの応援などがあってブランディングができて、それまで2位だった商品のシェアが1位になり、好感度も日本で1位になりました。

桑江:多くの共感を得られたわけですね。

CMは「どこ」がではなく「誰」が制作するかが大事

鹿毛:コロナ禍が震災当時と一番違っていて大変なのは、何かをやろうとしたときにみんな立場が違うということ。賛成の人もいれば反対の人もいて、いろいろな意見が出てくるので、ものすごく難しいのです。
例えば、僕は20年間、みんなにバカバカしいと言われるA社のCMを制作してきましたが、クレームを受けたことは一度もありません。クレームと言いがかりは分けなければいけませんが、それらがいろいろなところで起きているのは、著作権・肖像権に抵触するということを真剣に考えていないから。また、放送倫理基準には「差別はいけない」ということしか書いていないので、それから先はどうすればいいのか困っている人も多いですね。
何がリスクなのかを押さえるから、面白いCMの制作をやめなくて済む。やめなくて済むから面白いCMができる。面白いCMを制作するため、みんなを楽しませるためにはそこまで徹底して押さえるということです。
Webもテレビではできないような面白いことをやればいいのですが、押さえなければならないことはあります。確認をするための知識がないのなら、著作権法や景品表示法、放送倫理基準をしっかり読むべきだと思いますね。

桑江:そうした上で、ネガティブチェックをするべきだと。

鹿毛:放送回数も関係すると思っていますが、何回も放送したら人の心を傷つけます。「空気を変えよう」というCMもそうでした。あれを制作したとき、コロナ禍がここまで深刻な事態になるとは思っていなかったので、あのCMの悲しみのようなものがグッと上がり過ぎてしまいましたね。

桑江:ご自身が今、一番注目されているCMはありますか。

鹿毛:ちょっと思いつきませんね。ただ、CMは広告会社という組織が制作するわけではなく、人が制作します。一般の消費者はともかく、我々にとって大事なのは誰が、どういうチームで制作しているかなんですよね。だから「大手広告会社に頼んで何かやってもらおう」というのは思考停止で、完全にアウトです。
リアルな世界はアナログの世界。僕が「すごいな」と思っている人たちはフレームワークの使い方を勉強して押さえた上で、自らを一般の消費者として認識できるだけの人間力も鍛えています。そういう人にCM制作を頼んだらいいですよね。