勉強会・セミナーレポート
REPORT

イベントレポート:デジクラトークナイトVol.10「日本におけるウクライナ侵攻に関するネット論調の変化と情報戦」

開催日時:2023年03月15日(水) 19:00〜20:30

今回は「日本におけるウクライナ侵攻に関するネット論調の変化と情報戦」をテーマに、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の開始から1年が過ぎた今、ネット上での動きや情報戦についてゲストと振り返りました。

SNSなどで情報戦、ロシア擁護の意見も

桑江:ウクライナ侵攻が始まってからの1年を振り返り、情報戦やSNSに関して印象に残っていることはありますか。

小泉:第二次世界大戦後でウクライナ侵攻に匹敵する大きな戦争は、そう多くありません。非常に印象的だったのは、ロシアを擁護し、「ウクライナが悪い」と主張する意外な言論がどんどん出てきたことです。
ただ、全体として見ると、日本の言論空間は割と健全性を維持したのではないでしょうか。多くの有識者、実務者、政治家もロシアの行為は「国連憲章に反している」という点で一致し、結果的にネット上でも極端な言論の暴走を回避したと思います。
もちろん、万が一朝鮮半島や台湾海峡で同様の事態が起こったら、日本の情報空間がどれくらい持ち応えられるのかは依然として心配です。昨年12月に安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)で認知領域の安全保障が追加されたのは非常に良かったと思っていますが、具体的にどうしていくかは専門家の方々と政府が考えていかなければなりません。

古田:ウクライナ侵攻をきっかけとして始まった認知戦の中で、日本の言論空間はそれほどひどい状況にはなっていない印象です。
ただ、欧州はここ数年、官民を挙げて情報戦を戦う体制をつくり上げ、それが機能しています。各国のファクトチェックの団体が連合して組織した「欧州デジタル観測所」(EDMO)では、ディスインフォメーション(対象の信用を失墜させるためにマスコミなどを利用して広める虚偽の情報)に関して情報を共有しながら検証を進める活動を展開しています。
米国も官民さまざまな団体、ネットワークが生まれて対策を取っていますが、それらに比べると日本は全然だめで、アジアを見渡しても横のつながりがありません。
AIは我々の想像以上に急速な発展を遂げています。これまで日本を守ってきた言語の壁もそろそろ突破されそうな中、台湾や中国で何かが起こり、アジアでも情報戦が本格化したらどう対抗できるのかという危機感が募った1年間でした。

徳力:在日ロシア連邦大使館がフェイクニュースを平気で拡散したのは、シンプルにショックでした。今となれば、それも武器のひとつということで腹落ちますが、国の機関はあそこまではしないものだと思い込んでいました。
日本には言語の壁があり、フェイクニュースを情報操作のテクニックとして使うことに慣れている人も少ないので、情報戦は始まっていないように見えます。しかし、ロシアはSNSのアカウントを増やして準備していたわけです。
戦争と並行して情報戦が繰り広げられるのを初めて目の当たりにしましたが、自分の中ではまだ消化できていません。

国の安全保障を脅かす情報操作

小泉:ロシアの軍事思想は、ディスインフォメーションが大きな比重を占めています。2000年代以降、今のロシア軍の幹部クラスの中には偽情報とテロ、経済制裁などの非軍事的な手段を組み合わせれば、公的な戦争をせずとも相手国を不安定化させられるという考え方の持ち主が増えてきており、
2014年のクリミア併合はそのようなバックグラウンドがあったからこそ実行されたと思います。
ウクライナは2014年を教訓にして、その後はかなり身構えて、事前の準備を行っていたため、今回のウクライナ侵攻では、ロシアによる情報操作はあまり機能しませんでした。
9年前の偽情報作戦と今回のウクライナ侵攻を詳細に比べれば、情報戦でできることとできないことも明らかになるでしょう。今後の日本のサイバー安全保障の大きなヒントになると思います。

徳力:ウクライナ侵攻を契機に日本人は目を覚まさなければなりませんが、いまだに対岸の火事ように捉えている人の方がはるかに多いですね。

古田:そうですね。グローバルサウス(新興国・開発途上国)の人たちがウクライナ侵攻に対して明確に「ノー」と言わず、シンパシーもつくり出せているのは、ロシアの仕掛けた情報戦が一定の影響力を持ち得たということになると思います。
この点は、我々が本当に学ぶべきところです。東アジアで有事が起こり、国際世論に向けて日本を悪者にするような情報戦を仕掛けられたとき、どのように対応すべきかを考えておく必要があるでしょう。
だからこそ、日本政府は情報戦を政策課題として取り上げるようになったわけですし、先進7カ国首脳会議(G7サミット)でも話題に上っているのですが、実際にどう対応するのかを決めるのは本当に大変だと思います。