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DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第8回『佐藤尚之氏が語る「ファンベースとは?」―支持され、愛され、長く売れ続けるために―』

開催日時:2020年07月01日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

佐藤 尚之(さとう なおゆき)氏

1961 年東京生まれ。1985 年 (株)電通入社。コピーライター、CM プランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し、(株)ツナグ設立。

ヘビーユーザーが「ファン」とは限らない

桑江:「ファンベース」とは、ファンを大切にし、ファンをベースに中・長期的に売上や事業価値を高める考え方を意味するということですね。
社外にファンをつくる方法と自社の社員、社内にファンをつくる方法がありますが、日頃からファンを大切にしておくと、SNSなどの炎上も最小限に食い止めることができます。
普段から嫌われない努力、もちろん愛される努力を続けることが炎上予防にもつながるでしょう。

出典:佐藤尚之著『ファンベース ―支持され、愛され、長く売れ続けるために』

佐藤:ファンベースは、従来の広告キャンペーンやデジタル施策を否定するものではありません。それらが効くことはよく分かっています。
ただ、日本は新型コロナウイルスの影響による不況も起こるでしょうし、人口急減や超高齢化も止まりません。いろいろな意味で厳しい時代においては、「ファンこそが大事である」というのをベースに考えるのが先決で本筋であろうというのがファンベースの考え方です。

桑江:なるほど。

佐藤:顧客イコール「ファン」ではありません。では、商品やサービスのヘビーユーザーがファンかというと、そういうわけでもない。ファンというのは企業やブランド、商品が大切にしている価値を支持してくれている人です。
例えば、Jリーグのチームを思い浮かべてみてください。チームが強くてすごく良い選手が入ってくるとファンは増えますが、チームが弱くなったりスター選手が移籍したりすると多くは離れます。しかし、チームが弱くても主力選手が移籍しても、チームの考え方や地域貢献、選手育成の姿勢などを含めて「このチームが好きだ」という方々は簡単に離れません。
皆様の会社が大切にしている創業の志やミッション、お客様の笑顔、商品やサービスのクオリティー、地域貢献の考え方などを理解して支持してくれている人がファンです。
表面的に「これがおいしい」「これが便利」と使っている人は、もっとおいしい物、もっと便利な物が出てくるとすぐに移ってしまう人たちで、それはファンではないということです。

桑江:そうですね。

佐藤:そういう考え方などをある程度理解されたからこそファンになってもらえるのですが、現状ではファンが軽視されています。
なぜかと言うと、ファンは黙っていても商品やサービスを買ってくれるから。それよりも「新規顧客を獲得して売上を伸ばさないとシェアが増えない」ということですが、人口減やコロナ不況などで新規のお客様が入ってくるのは、そんなに簡単なことではありません。前年比増という成長はなかなか難しい時代においては、ファンが特に大事になってくるだろうというのがファンベースの考え方です。

20%のファンが売上の80%を叩き出す

桑江:ファンベース施策を進める上でのポイントは何でしょうか。

佐藤:なぜファンベースを始めた方がいいのか。まず、パレートの法則に基づけば売上はファンが支えているということです。ある課金型ソーシャルゲームは上位1.9%のコアファンから売上の80~90%を得ています。
また、ファンたちのライフタイムバリュー(LTV、顧客生涯価値)を高めると、そのまま売上アップにつながります。つまり、ファンの数は変わらなくても、ファンたちが喜んでもう1つ、もう2つ買うようになれば、売上は底上げされていくわけです。
ファンベースと言うと、一般的に80%の顧客層をファンにすることと思いがちですが、まずは上位20%の人たちのファン度を高め、より喜ばせることが大切でしょう。

出典:佐藤尚之著『ファンベース ―支持され、愛され、長く売れ続けるために』

桑江:無理にファンを増やそうとしなくてもいいということですね。

佐藤:日本は人口の急減でマーケットが縮小します。向こう30年間で3,000万人が減る、つまり豪州1国分の市場が消滅するわけで、100万人都市が毎年1つずつ消滅する計算で、景気は確実に冷え込んできます。
そういう中で、従来のやり方で新規のお客様に何とか買ってもらおうとするのは無理。売上を支えてくれているファンがいるなら、そちらの方が大事なのは当然でしょう。
情報もメディアも増えているので、「これがいいよ」と叫んでも簡単に聞き入れられるわけがありません。そうなってくると、新規顧客のアップより既存顧客のキープに価値観が移るだろうと思います。商品やサービスを売ったときに顧客との関係性を結ぶことがすごく大事で、商品を所有すること自体が関係性の構築であるという時代になるでしょう。
消費することは、その商品やサービスへの応援、投票であるという意識も高まってくるはずです。事業の継続・成長を支えてくれるのがファンであるという流れは確実なものになると思っています。

桑江:そのような時代の波がやって来るのは確かです。

出典:佐藤尚之著『ファンベース ―支持され、愛され、長く売れ続けるために』

佐藤:口コミは昔から大事でしたが、その重要性がさらに増したのが今。情報も商品・サービスも過剰な時代、人は家族や友人の選択に頼っています。最も信頼されるのは学者や専門家、有名人、著名なインフルエンサーの選択ではありません。有名人やインフルエンサーの情報はフォロワーも多いので拡散するでしょうが、頭に残っている人はなかなかいないのです。
企業にとっては信頼される情報が広まる方がうれしいわけで、それが家族や友人の情報です。情報通でもない家族や友人が信頼される理由は1つで、価値観が近いから。家族はもちろん、友人とも生活レベルや生きてきた環境が近いから仲が良くなったわけです。そういう人が愛用している物や大好きなことは、自分も気に入る可能性が高いと言えますよね。

出典:https://www.fanbasecompany.com/about/index.html
佐藤尚之著『ファンベース ―支持され、愛され、長く売れ続けるために』

桑江:同じような属性や価値観の人には親近感を抱きやすく、影響も受けやすいですよね。

佐藤:自分が本当に好きな商品・サービスのことは、価値観が近い人に熱意を持って伝えるものです。ファンがファンを呼ぶ形で、新規顧客もどんどん増やしてくれます。

桑江:そうですね。

「共感」「愛着」「信頼」…コピーできない「情緒価値」

佐藤:今までのマーケティングは「買っていない人」に注目し、「なぜ買わないのか」「買ってもらうためにどうすればいいのか」を企画することの繰り返しでした。しかし、多くの顧客は次々に出入りする人たちで、そういう顧客をつかんでは離してきたわけです。
これに対し、ファンベースは買い続けてくれている人に注目し、もっと喜ばせる、もっと満足度を上げることでLTVを上げます。その結果、信頼度が高い情報が家族や友人に発信され、売上が増える仕組みです。

出典:https://www.fanbasecompany.com/about/index.html
佐藤尚之著『ファンベース ―支持され、愛され、長く売れ続けるために』

桑江:「買っていない人」に対して商品やサービスの悪い部分を直すのではなく、今愛されている良い部分を伸ばしていくべきということですね。

佐藤:超成熟市場ではUSP(自社のこだわり、強み)が陳腐化します。今までのマーケティングは他社と違う商品特徴を売りにしてコミュニケーションを取っていましたが、すぐに後発に研究されて追い付かれ、付加価値をつけられた上に安価化されるわけです。
もちろん、新規顧客は増えますが、その機会に「この商品・サービスが好き」という感情でファンにしておかないと、選考を研究した後発に奪われてしまいます。機能価値はコピーできますが、「共感」「愛着」「信頼」という情緒価値はコピーできません。SNSは「愛着」を強める上で最高の接点になると思います。

桑江:感情を大切にすることで、企業活動の支持基盤も固まりますね。

佐藤:20%のファンが離脱しなければ80%の売上が固まります。ファンをより大事にするとLTVが少しずつ上がるわけで、そのような支持基盤をベースにしたキャンペーンなどを展開すればファンは喜び、SNSなどで発信してくれて相乗効果が高まるでしょう。
支持基盤をしっかりつくれば、不況や災害などに強い企業体質に早く変わることもできると思います。
「良い部分」「情緒価値」「支持基盤」をよく知っている濃いファンにそれらを聞いた上でのファンベース施策を実施してファン度を上げていくことで、熱量の高いファンが増えていきます。

桑江:「情緒価値」は伝え方が大切だと思いますが、ポイントはありますか。

佐藤:ファンの意見を傾聴することが重要で、特にファンミーティングの活用をお勧めしています。ただし、ファンイベントとファンミーティングを混同しているケースが多いですね。ファンミーティングに集めるのは3人だけでも結構です。
商品やサービスの「良い部分」だけを調査するわけですが、大勢のファンをイベントでもてなすだけでは何も聞き出せないので。ファンミーティングで「ファンのツボを知りましょう」という場合は30人でも多いくらいですね。