レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第10回『コロナ禍で見直すべき危機管理広報~社内体制づくりのポイント~』

開催日時:2020年07月15日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

大森 朝日(おおもり あさひ)氏

株式会社 大森朝日事務所 代表取締役。広報・危機管理コンサルタント。早稲田大学商学部卒、立教大学大学院修了。時事通信社、共同通信社で約14年半にわたり、記者として勤務。経済分野を専門とし、民間企業を中心に幅広い分野を取材。2007年6月電通パブリックリレーションズ入社。業界団体の報道論調分析、企業の製品トラブル、金融機関の経営問題、政党広報に関するコンサルティングのほか、数多くのメディアトレーニングや危機管理広報コンサルティングに従事。クライシスコミュニケーション部長、シニア・プロジェクト・マネージャーなどを歴任。

炎上件数が高止まり、求められる企業の情報開示

桑江:まずは、2020年1~5月の新型コロナウイルス関連の炎上件数を見ていきましょう。4月の246件がピークで5月は159件に減りましたが、前年同月比では2.6倍に達しています。1~5月の炎上件数全体の16%を新型コロナ関連が占めていることから、感染拡大の影響で例年より炎上件数が増えていると言えます。
直近3カ月間における新型コロナ関連の炎上では「病院」「政府」「パチンコ」などのキーワードが上位20位以内にランクインしていて、それらの書き込みのハッシュタグを見るとテレビの情報番組のコメンテーターなど多くの著名人が炎上しています。

大森:やはり、ソーシャルメディアの反応には目配せが必要だと言えるでしょうね。

桑江:社内で感染者が出た場合、事情はどうであれ注意喚起の意味で企業は自発的に公表した方がいいでしょう。近隣の住民や職場、同じ公共交通路線の利用者など社外の人にも感染リスクが伴うので、公表はそのリスクを下げることにつながり、企業の社会的使命を果たせることにもなります。
また、沈黙はかえって風評被害を拡大させることになりかねません。今は身内である社員に告発されるリスクもあります。2月には感染者と思われる人物がインターネット上の掲示板に「自分は感染した」と書き込み、ネットユーザーが投稿者本人の名前や勤務先を特定しようと騒動になりました。結果的に噂が独り歩きしたため、勤務先の企業が情報開示に踏み切った経緯があります。
企業としては正しい情報を迅速に公表した方が、感染リスクも炎上リスクも最小限に抑えられるということです。

大森:情報開示は非常に重要ですよね。「自分は感染した」という書き込みの件はネットで情報が拡散したことで、企業はより積極的に情報開示しなければならないという流れができました。それに関しては、おおむね好意的な評価が多かったと考えています。

桑江:一方で、感染者のプライバシーに配慮することも必要ですね。

大森:新型コロナに関して言えば、情報公開について個人情報と公益性のバランスが最大の問題です。本来、病気はこと細かに情報開示するべきものではありません。しかし、新型コロナに関しては感染拡大を防ぐという意味で、個人情報に配慮しながら行動履歴などの情報を開示する流れができています。
開示が遅れると「隠ぺいしているのではないか」と騒がれて炎上するリスクが生じるので、企業としては保健所と開示情報をそろえることがポイントですね。ただし、不特定多数の顧客がいる場合は、保健所が会社名や施設名を伏せたとしても自主的に情報を開示する姿勢が求められるでしょう。
多くの企業は記者クラブへのリリースかホームページでの情報開示にとどめていますが、よほどのことがない限りはそれで納得感を得られると思います。

桑江:クラスターが発生した場合は別ですが、1人、2人くらいの感染者数だとあまり世間に騒がれなくなった、そもそもニュースにも取り上げられなくなった印象です。

大森:不特定多数の顧客がいない限りは、ホームページの公開にとどめる、あるいはそれもしないという企業が増えてきています。

テレビ会議による記者会見が主流に?

桑江:コロナ禍の中では、オンライン記者会見など企業の広報対応も変化しています。

大森:コロナ禍においては、記者クラブがますます弱体化、形骸化することが予想されます。IT企業やベンチャー企業が存在感を増す中、そもそも記者クラブの存在意義が疑問視されていて、そういった声が強まるのではないでしょうか。
記者クラブは官公庁、民間ともに「3密」の環境で、そこで記者会見も開かれることもあるのが適切なのかということです。3月末の決算をテレビ会議で発表した企業も相当増えている中、記者クラブの存在自体も変化してくると思います。

桑江:なるほど。

大森:コロナ禍の前から、ネット中継で記者会見を行うケースがかなり増えていたので、企業はテレビ会議で会見することへの違和感はあまりないと思います。
もちろん、ネット中継とテレビ会議に著しい差異があるわけではなく、どちらも映像で見て取れる表情や動作が非常に重要になります。
ネット中継などでは記者自身も炎上リスクにさらされるので、恫喝的、威嚇的な質問がかなり少なくなってきた印象です。会見の中身が最初から最後までそのまま流されるため、恣意的ではなく内容を正確に報道する記事が増えてきました。多くの人が見るので、情報もより透明化されると言えます。
一方、会見する側にとっては登壇者の表情、動作がもろに出てしまい、詳細な発言の記録が残ってしまうのはデメリットにもなりかねません。特にテレビ会議では、司会のテクニックにも工夫が必要になるでしょう。いずれにせよ、入念な準備をしないとなかなかうまく運営できないと思われます。

桑江:確かに、ネット上では記者の質問の是非を問うコメントも増えていますよね。会見での発言と実際に報じられたニュースの対比も見受けられるので、恣意的な編集があれば指摘されやすくなっています。

大森:記者にとっては非常に厳しい環境と言えるので、慎重にならざるを得ないと思います。ただ、画面の中の相手の言葉を遮らないようにすると質問に間合いが生じて時間がかかるので、それがまどろっこしいと感じるかもしれません。場の空気も読みにくくなるため、説明する側はより丁寧に説明する必要が出てくると思います。
新型コロナの感染拡大の状況にもよりますが、不祥事の場合もテレビ会議による記者会見が主流になる可能性もないとは言えないでしょう。記者側の抵抗は相当あると聞いていますが、個人的にはその流れが避けられない気がします。
ただ、現状では決まったやり方やアプリ、ツールがないということもあり、企業と記者側で間合いを取りながらルールができるのではないでしょうか。

自社の炎上リスクのモニタリングは必須

桑江:国民性の指標であるホフステード指数を見ると、日本人は新しいことや常識外のことに弱いと言え、それはコロナ禍で炎上件数が増加していることにも表れていると思います。例えば、BCP(事業継続計画)は震災時に大きく注目されましたが、コロナ禍の危機においても策定し直す必要がありますよね。

出典:仁木一彦著『【図解】ひとめでわかるリスクマネジメント』(東洋経済新報社)
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/alphabet/bcp

大森:新型インフルエンザを想定してBCPを構築していた企業は少なくなかったでしょう。ところが、新型コロナは無症状の患者がたくさんいる、あるいは治療法が確立されていないなど想定外のことが多かった。こうした中で、企業は走りながらBCPを修正している最中だと思います。

桑江:ネット炎上のパターンなどについてもコロナ禍の前後で変わってきているので、リスク対策やフローもこのタイミングで見直す必要が出てきているのではないでしょうか。

大森:少なくとも、Yahoo!検索などに自社に関するキーワードを入れて何時間かおきに見ていただくことはしていただきたいですね。一番いいのは、リスクモニタリングを専業の会社にお願いすることだと思います。

桑江:そうですね。世の中の動きを見るという観点で、何か意識されていることはありますか。

大森:新型コロナの感染拡大もまさにここ数日、非常に心配な状況になってきています。場合によっては、自粛が再開する方向に向かうかもしれません。最近はリアルな記者会見が増えてきていますが、企業としてはテレビ会議による体制を整えていかなければならないのかなと思います。

桑江:SNS上では「Go Toキャンペーンを中止してください」というハッシュタグの投稿が盛り上がっていますが、「自粛組」と「何とか経済を動かしたい組」の対立が、さらに深まっている感があります。企業としては、世の中の状況を見ながらの難しい舵取りが迫られるということでしょうか。

大森:双方の組が、せめぎ合っていますよね。しばらくは、行きつ戻りつという状況が続く気がします。