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ウェビナーレポート:第13回『コロナで加速する誹謗中傷~ネット炎上の実態と対処法~』

開催日時:2020年08月05日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

コロナ禍のネット炎上が増加

桑江:デジタル・クライシス総合研究所主催の第13回ランチタイムウェビナー、本日は「コロナで加速する誹謗中傷~ネット炎上の実態と対処法~」というテーマです。コロナ禍における炎上は2020年4月が246件で、2019年1月からの統計では最多、昨年同月比3.4倍でした。1日平均で約3.6件。ただし6月は68件と、5月の159件からかなり減った印象です。こうした増減について、山口先生はどんな印象をお持ちでしょうか。

炎上の推移:2019年1月~の炎上件数推移

※弊社調べ

山口:一度、4月に前年同月比で3.4倍になったのが、だんだん落ち着いてきたと。これがなぜかというのを考えるには、そもそもなぜ増えたのかという背景を考える必要があると思うんですよね。

桑江:4、5月は緊急事態宣言が発令されていたので、例えばイベント開催や店舗営業、あとは芸能人が沖縄に旅行するといった行為が炎上してしまったと。また、著名人の「一緒に頑張りましょう」「ステイホームしましょう」といった声掛けにも過敏な反応があって炎上したり、「自粛警察」と呼ばれる人々が横行したりということがありました。

山口:炎上が増えた要因を整理すると、主に2点あると考えています。1点はソーシャルメディア利用時間が増えたから。例えばTwitterは世界中で24%ほど利用時間が増えたと言っておりますし、Facebookは50%くらい増えたと。こういう状況だと不快な情報に触れる機会も増えるし、攻撃的な書き込みがしやすいという環境が整うので、炎上は増えると。

桑江:世の中の殺伐とした空気が、炎上の件数にも表れたのかなと思いますね。

山口:まさに「不謹慎狩り」「自粛警察」から見えてくるのですが、社会的な不安が大きくなったときに、炎上件数は必ず増えるんですよね。「敵」をつくり、それに対して正義感から批判することで不安を解消しようという心の動き。脳科学の分野では、そうした行為によってドーパミン、脳内の快楽物質が分泌されると言われていて。そうしたことから炎上が急増したと考えられます。

直接的なコロナ関連の炎上割合は16%

桑江:実際にコロナ関連の炎上は、どこまであったのか。資料を見ると2020年1~5月、コロナに直接関連する炎上が占めた割合は16%でした。先ほど説明したように、例えば4月の炎上件数は前年同月比3.4倍でしたが、直接的なコロナ関連の割合は16%しかなかったと。

山口:そうですね、不安になっているから、いろいろなものにかみつくとか、そういったメカニズムの方が急増には大きく作用していて、実はコロナ関連というのはそこまで多くなかったということが分かると思います。

桑江:炎上の理由は「不適切な発言」や「自粛要請に従わない」、さらに「便乗商法」といった形が目立ちます。

コロナ関連の炎上詳細

※弊社調べ

山口:やはり気になったのが「不適切な発言」ですよね。ここはかなりセンシティブなので、SNSで発信する場合は工夫が必要なのかなと感じました。

桑江:山口先生からもありました不適切な発言というものに関しましては、一部のうがい薬が「PCR検査で陰性になりやすい」という表現で発表された結果、買い占めが起きて、違法に転売される現象もありました。SNS上では発表内容についても賛否両論がありましたが、山口先生はどう感じられましたか。

山口:「うがいも大切ですよ」と注意喚起すること自体は悪いことではないと思うのですが、受け手側の問題も考えなければなりません。すぐさま買い占めて転売する人や、誹謗中傷を繰り返してしまう人。そういったことがやはり一番の問題かなとは思っています。

桑江:そうですね。買い占めに関しては5月頃、「トイレットペーパーを買えなくなる」といったデマもありましたので、同様のことがまた繰り返されたような印象があります。

山口:やはりwithコロナのソーシャルメディアの使い方、あるいはフリマアプリのようなものの使い方というところを、もっと考えなければならないと感じました。

ネット上には能動的な発信しかない

桑江:ネットと実際の世論、あるいはネットとテレビの論調の違いもあると思うのですが、買い占めにまで至ってしまう騒動という観点で、何かお感じになる部分はありますか。

山口:1つ言えるのは、ネット上には能動的な発信しかないということ。普通の会話、あるいは受動的な発信はほとんどない言論空間なんですよね。人類の有史以来、こういった言論空間がこれほど支配的になったというのは初めてです。さらに、能動的な発信しかないため、極端な意見とか否定的な意見の方が多く表出しやすい。だから、炎上もしやすいわけです。

桑江:ありがとうございます。次の話題は「Go Toトラベルキャンペーン」。SNS上ではかなり多くの投稿がありました。中でもキャンペーン反対の署名運動には、約15万人の方々が賛同したと。SNS上、特にTwitterでも「Go Toキャンペーンに反対します」というハッシュタグが多く投稿されて、実際にかなり大きな運動になりました。

キャンペーンに関連する投稿の約7割が否定的な内容で、中でも大きく取り上げられたキーワードが「駄目」。これはAIで自動的に分別した結果ですが、かなり大きなデータになっていると。経済を重視する人と、安心を重視する人で二分されていて、意見が全く交わらない、分断されている印象が大きいですね。恐らくこのポジティブとネガティブを言っている方々も、それぞれの意見で孤立し、交わっていないような印象を受けますね。

SNSでは「Go To キャンペーン」に約7割が否定的

※弊社調べ

山口:これも賛否両論と言いますか、ネットの面白いと言うか、あまりよろしくない点と言うと、ネガティブとポジティブが分断しているんですよね。ポジティブな人はすごく支持するし、ネガティブな人は全く支持しない。ネガティブな人はものすごく批判するという傾向があると感じますね。

桑江:では改めて、ネット炎上の実態についてお話ししたいと思います。2018年の調査を基に山口先生が作成されたデータに、憲法改正というテーマに関する調査結果があります。従来の世論とネットの世論では、それぞれの結果が大きく異なっていると。

ネットが形成するアンバランスな世界

出典:山口真一著・朝日新聞出版「炎上とクチコミの経済学」(※上記グラフは、2018年の調査を元に山口氏が作成)

山口:そうですね、実際の社会の意見分布としては山型が多い。これは憲法改正に限らず、どんなイシューでもそうですが、山型が多い。一方、ネット上では谷型になってしまって、極端な意見がものすごく多くを占めています。

桑江:従来の世論では「どちらともいえない」「どちらかというと賛成」「どちらかというと反対」という中庸な意見が多いのに対し、ネット世論は「非常に賛成」「絶対に反対」という極端な意見が多い。このように大きな違いが出ているということが挙げられるかと思います。

山口:ネットの世論をパーセンテージに直すと、45%くらいが「非常に賛成」か「絶対に反対」の人が占めている計算になりますが、本当は14%しかいないんですよね。その人たちの意見が半分近くを占めてしまうほど、ネットというのは極端な意見が多くなっているということがあると。

桑江:ちなみに、これは2年前のデータですが、コロナ禍の状況としても恐らく変わらないという感じでしょうか。

山口:そうですね。調査をしていないので何とも言えないのですが、恐らくこれはネットの根源的な特徴、「能動的な発信しかない」というところが大きく関わっているはずなので、これは現状でも変わらないだろうと考えています。

ヘビーな炎上参加者は、わずか3%

桑江:それを踏まえて次の調査結果になりますが、炎上参加者の7割は1回から3回という書き込みの数で、51回以上参加したヘビーな炎上参加者は全体の3%しかいません。しかし、ネットの世界、ネガティブサイトの中では、51回以上のヘビーな炎上参加者の書き込みが占める割合の方が多くなってしまうと。ヘビーな炎上参加者はごくわずかで、ネット世論は従来の世論を反映したものではないということですね。

ネットが形成するアンバランスな世界

出典:山口真一著・朝日新聞出版「炎上とクチコミの経済学」(※上記グラフは、2016年の調査を元に山口氏が作成)

山口:ネットの誹謗中傷に対して泣き寝入りするのではなくて、訴えていこうという動きが出てきています。これは非常にいいことだと思っていて、現行法の中でしっかりと対応すると。それにより、「こういうリスクがあるんだな」ということが社会に広く周知されることで抑止力になるというところが最大のポイントかと考えています。

桑江:法務省と総務省は、SNS事業者と共同で「SNSの誹謗中傷減らすサイト」を開設しました。「人を傷付けずにSNSを利用しましょう」といったメッセージ、あとは傷付いたときの対処法、「ブロックやミュートで距離を置こう」「ルール違反の投稿の削除を依頼しましょう」といった内容が掲載されています。こうした活動について、どのような印象をお受けになりますか。

山口:プラットフォーマーさんは以前から結構対策はしていて、例えばTwitter社であれば削除レポート、つまり何かの基準に抵触して削除した投稿は何件あったかというようなレポートを毎年出しています。ネット上の誹謗中傷が社会問題化する中で、このサイトのような動きが加速し、実行に移されているというのは大変意義があると考えています。

一方で忘れてはいけないのは、誰でも自由に訴えられるような状況になってしまったり、あるいはプラットフォーマーが投稿をどんどん削除してしまったりすると、今度は表現の自由がなくなり、やりたい放題になってしまうんですよね。そのバランスに気を付けながら、しっかりと取り組んでく必要があると考えています。

桑江:表現の自由との兼ね合いというのは、ずっと言われている部分。やはり、そう簡単ではない問題かなという気はしますね。

ここからは、先にいただいた質問から、いくつか挙げられればと思いますが、まず1つ目ですね。ネット投稿やSNSが身近になるにつれて情報リテラシーの必要性や重要度が増しているかと思いますが、現在の義務教育でどのように対応しているか、今後どのような取り組みをしているかなど、すでに実施されていることがあれば聞いてみたいということなのですが、いかがでしょう、山口先生のご存知の範囲で。

真偽不明の情報は拡散しない

山口:今までは情報の発信に関する教育がメインでした。相手が傷付くようなことは書いてはならないとか、ネットもリアルも変わらないということがメイン。しかし、これからの教育で求められるのは情報の受信に関すること。自分の接している情報はデマやフェイクニュースかもしれないし、自分の見たい情報ばかりを見ているとフィルターバブルとかエコチェンバーのような偏りが必ず出てくる。そこをもっと啓発する必要があると考えています。

桑江:ここ1、2年、フェイクニュースが広がってきて、ファクトチェックの重要性なども騒がれています。われわれも「ファクトチェック・イニシアティブ」という団体に所属しておりまして、そのような形の活動もしていければと思っている次第です。

続いての質問は、リスク発生後のSNS対応をする上でのポイントについて。山口先生の立場から何かアドバイスがありましたら、お願いできればと思いますが。

山口:個人か企業かにもよりますが、個人であれば批判してきている人をあおってはいけないとか、いろいろあると思います。企業なら、一番重要なのは事実の発表に重きを置くということ。例えば自社に非がなかったとしても、もちろん消費者を責めてはいけないですし、隠蔽行動、言い訳も炎上の激化につながります。真摯に、とにかく事実を述べる、それは謝罪しない場合もそうであるということがポイントかなと考えています。

桑江:3番目ですが、世界のSNSから日本に影響のありそうな事例はありますかという質問です。そのあたりについて、お話をうかがってもよろしいですか。

山口:例えば韓国では、ネット炎上が大きな社会問題になっています。そういった中で、ネット実名制を導入したり、ネット上の侮辱罪の摘発を強化しようという動きが出たりということがあります。日本でも、そういったものを参考にしようという動きが活発化する可能性は否定できないでしょう。実際に「そうした対策が必要なのではないか」とおっしゃる日本の有識者、政治家もいらっしゃいますので。

桑江:このフェイクニュースに関連して、例えば科学的根拠の有無の見極めが難しい情報を受信したとき、その情報をどうファクトチェックすれば良いでしょうかという質問をいただいております。もちろんエビデンスと言いますか、情報の出所を調べましょうという話はあると思いますが、それ以外に山口先生が実践、意識されていることがありましたら、うかがえればと思います。

山口:例えば新型コロナでも、科学的根拠がどうなのか分からないことが結構多いです。なぜかと言うと、初めての現象だから。もちろん、まずやることは、先ほどの「ファクトチェック・イニシアティブ」のページに行けば、コロナ関連のデマリストのようなサイトがある。そういったところを確認するとか、あるいは専門家が何を言っているのか確認するのが重要です。

でも、それでも真偽が分からなかった場合、われわれができることはただ1つ、それを拡散しないこと。絶対に拡散しないでください。拡散しなければ広がらないんです。東京ロックダウンの話とか、「お湯を飲めばコロナウイルスが死ぬ」というような話は、分からなかったら拡散しなければいいんです。そこだけを意識することが非常に重要だと考えています。

桑江:そうですね、「どうファクトチェックすればいいのだろうか」と怪しんでいる時点で、その拡散をやめましょうと。「確実だよね」と言われるもの以外は拡散しないという姿勢を徹底できれば、世の中は多分、少なくとも今より良くなっていくという感じでしょうか。