レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第17回『「一風堂」中の人が語る、 リスクを正しく恐れて成果を出すSNS活用術』

開催日時:2020年09月09日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

前園 興(まえその こう)氏

株式会社力の源カンパニー マーケティング・制作グループ グループリーダー。ラーメン専門店「博多 一風堂」を中心に、同社ブランドの販促企画・広報・SNS・クリエイティブ領域を横断しながらファンマーケティング推進中。一風堂 公式Twitterの「中の人」を2013年の立ち上げから7年務め、“個へのアプローチ”を重視したSNSの活用で着実にファンを増やしてきた。(※現在は「中の人」を卒業。2代目が頑張ってますので応援よろしくお願いします!)

日本企業で先駆け、2011年に公式アカウントを開設

桑江:「一風堂」が公式Facebookを開設したのは2011年でしたね。ご自身は一風堂の初代(前任)の「中の人」ですが、御社がSNSの運用を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

前園:Facebookを使い、社員同士でつながるケースが増えたことです。そのように市民権を得たものからきちんと対応していくことが大切だと考えました。

桑江:日本企業のビジネス利用としては、かなり早かったのではないかと思います。

前園:お客様と接触できる機会を少しでも増やそうと、2013年にTwitter、2014年にLINE(一部店舗)、2015年はInstagramと、トレンドの変化に合わせて公式アカウントを開設してきました。
それぞれのアカウントに特色があるのですが、2018年には来店効果が高いLINEを全店で取り入れ、2019年に導入した公式アプリの会員数も増えています。
我々が目指したのは広告費を極力抑え、自力で情報をリーチできる状況です。やっと、ある程度のボリュームゾーンに情報を発信できるまでになり、打てば響くという環境が整ったと感じています。

桑江:SNSのアカウントは、どのように使い分けているのでしょうか。

前園:公式アプリ、LINEなどはプッシュ通知ができるので、お客様に「直接リーチ」をしやすいという特徴があります。クーポン、ポイント、キャンペーンなどの情報はこうしたところで着実に伝え、お客様にご来店いただけるようにしています。
一方、Facebook、Instagramで発信した情報は、お客様がスマートフォンを見なければ気付いてもらえない「偶発リーチ」です。すぐに来店を促すという効果は薄いのですが、自分たちの思いやこだわりをじっくりと文章化できるので、ファンとの関係性を構築するために役立てています。

桑江:第三者の食欲を刺激する効果、いわゆる「飯テロ」に適していると言われるInstagramの情報発信に関して、曜日や時間帯など意識したことはありますか。

前園:昼食前の午前11時台と、仕事を終えて「飲みに行こうか」という夕方の時間帯に発信するようにしました。一番に考えるようにしたのは「おいしそう」と思ってもらえそうな写真をアップすることですね。

「広報するより、広報される」 魅力的な企画づくりを重視

桑江:「一風堂」と言えば、次々と繰り出されるユニークな企画も印象的です。

前園:SNSで情報を発信するのは大切なことですが、情報そのものに魅力がなければなかなか広がっていかないと感じました。そこで思いついたのが「広報するより、広報される」という考え方で、企画が大事ということです。
例えば、バレンタインデーの季節に実施した「バレンタイン海苔」(2016年)という企画では、クスリと笑えるメッセージを書いた海苔を無料でトッピングし、お客様に写真を撮ってもらいました。

桑江:それは面白いですね。

前園:ハリウッド映画とコラボレーションした企画「麺・イン・ブラック」(2019年)は駄洒落ですが、実際に黒いスープが入ったラーメンを提供しました。また、2016、2017、2019年の国政選挙に合わせて実施したのは、投票したお客様に「替え玉」か「玉子」を無料でサービスするという企画です。
単に一風堂の取り組みを発信するのではなく、世の中の出来事とラーメンを結び付けることで、自分事として受け止めてもらえる企画をつくれたらと常に考えています。
もちろん簡単なことではありませんが、その方が誰かに話したくなったり情報が自走したりする状態に持っていけるので、情報発信の前に企画そのものを大事にするというのが一風堂の姿勢です。

桑江:ちなみに「麺・イン・ブラック」は、映画とのコラボが決まってから考えた企画だったのですか。

前園:お声掛けをいただいたのが始まりでしたが、先方が乗り気で、最初から「『麺・イン・ブラック』という企画をやりたい」と言っていただきましたね。

桑江:「白丸」と「赤丸」で知られる一風堂は「色」を大切にしているイメージも強いので、企画の立て方が非常にうまいと感心させられますね。

前園:「広報される」という意識がはっきり芽生えたのは、2015年の創業30周年のタイミングでした。感謝の気持ちを込めた「振る舞いラーメン祭」という企画を実施したのですが、それを機にTwitter上で「一風堂」というワードがつぶやかれた数が増えたのです。
つまり、一風堂を話題にしてくれた人が増えたのですが、企画を立てるときはそのようなツイートの「山」をたくさんつくれる状態が理想と考えています。

桑江:情報を発信して終わりではなく、その後も反応が続くようにするということですね。

前園:日々の生活の中で「一風堂」「ラーメン」を思い起こすことはそんなにないでしょう。だからこそ、いろいろな形でニュースを送り出し、多くの人の目に触れる機会を増やしていきたいということですね。

店舗の笑顔と活気、SNSでも体現

桑江:SNSの運用で心掛けるようにしたポイントはありますか。

前園:3つあります。まずは、店舗スタッフからのあいさつ。今は毎日ではありませんが、開店前後の時間に「おはようございます。今日は〇〇店からです」という形で投稿するようにしました。
従業員の笑顔と活気もラーメンに付随するサービスの価値と捉え、SNSでもそのマインドを体現できればと考えて始めた試みです。
公式アカウントに登場した本人たちは喜び、他の従業員も「仲間が頑張っている」と励みにしてくれるので、社内的にも良い効果が生まれたのは間違いありません。
繰り返し投稿することで1つのブランドイメージになるので、「一風堂に行けば笑顔のスタッフが迎えてくれる」というイメージが定着すればいいと思いました。

桑江:SNSを運用する企業の「中の人」は、「社員を登場させたいが、恥ずかしがってなかなか出てくれない」という悩みを抱えていることも少なくありません。そのような状況になったことはありますか。

前園:出たくなければ無理に出なくていいのは当然ですが、毎日投稿していた頃に用意していたのが「今日は〇〇店、明日は〇〇店」というカレンダーです。前もって準備しやすくなったことで、スケジュールをきちんとフォローしてもらえるようになりました。

桑江:それは素晴らしいですね。

エゴサーチはユーザーと積極的に関わる手段

前園:2つ目はTwitterでの顧客対応ですが、時間があればエゴサーチをしていました。
ただ、企業のアカウントからいきなり接触されると構えてしまうユーザーもいると思い、少しでも抵抗感を和らげようと、プロフィール文には「一風堂の話題に敏感すぎて、何の前触れもなくリツイート、リプライさせていただく場合がございます」と書いておいたのです。
そういうスタンスのアカウントだと表示することで、絡まれたユーザーも「なるほど」と気楽に応じてくれると考えました。

桑江:それは結構、重要なリスクヘッジですよね。企業に突然絡まれることを怖がる人も一定数いますが、プロフィールに書いておけば理解してもらえますので。ユーザーの投稿に「いいね!」を押すことによる効果はありましたか。

前園:一風堂と別の飲食店を比べて「どちらに行こうかな」と迷っているツイートが結構多かったのですが、それを見たら必ず「いいね!」を押すようにしました。
公式アカウントから「いいね!」をもらったことで「じゃあ、一風堂に行こう」と決めてくださったり、フォロワーになってくださったりするメリットを得られたのは大きかったですね。
それを繰り返していくと、「このユーザーには絡んでも大丈夫か」ということも、何となく分かってきます。

桑江:エゴサーチをして良かったということは多いのですね。

前園:商品やサービスに対するご意見など、お客様が一風堂にどういう印象を持たれているかを知ることができますから。クレームのような投稿を見つけたときも店舗スタッフと共有し、事実確認を経て改めてお詫びのメッセージを返信したこともあります。
一番の効果は、やはり親近感を持ってもらえるということですね。状況によっては、売上にもしっかり貢献できます。

桑江:なるほど。

一風堂ではなく、ラーメン文化を紹介するアカウントに

前園:最後のポイントは、一風堂よりラーメンを上位概念に置くということです。
一風堂のことだけを発信しなければと考えてしまうと情報のストックが限られてしまいますし、宣伝ばかりで楽しくないアカウントになってしまいます。ラーメンの文化そのものを楽しんだり広めたりするという視点に立てば、いろいろな考え方が変わっていくと思います。
通常、競合他社の情報を発信する機会はないと思いますが、ラーメンが好きなアカウントという立ち位置なら他店を紹介してもいいと思います。自分たちのことばかり考えないというのが、大切にしてきたマインドです。
例えば、新型コロナウイルスによる最初の緊急事態宣言が明けて間もない頃、外食をしづらい状況が続いていました。そこで思いついたのが、一風堂ではなく「お店でラーメンを食べたくなるキャッチコピー」を公募すること。ラーメンそのものを盛り上げれば、最終的には自分たちにもいい形で返ってくると考えています。

桑江:まさに、その通りですね。

前園:一風堂の中の人である前に、ラーメン好きな人でいいと考えています。フォロワーさんの多くも「ラーメンの情報を知りたい」と思っているでしょうから。自己アピールばかりでは愛されないので、社会の一員であるという認識を持つことも必要です。
例えば、テレビ番組のラーメン特集が盛り上がった翌日は、番組では紹介されていなかった一風堂の売上が伸びることもあります。特にSNSで発信する場合は、そのような状況を目指して底上げしていくことが全体最適につながると意識していました。

日々の投稿による関係づくりが大切

桑江:ラーメン好きな人がラーメンを盛り上げたいと考えているアカウントは、ラーメン好きのファンにとっても心強く、気持ちいいと思いますね。リスク回避のために心掛けていることはありますか。

前園:よく「SNS担当者専用の運用ポリシーはあるのですか」と聞かれるのですが、特別なものは存在しません。公式アカウントに用いているのは全社員向けのSNS運用ポリシーですが、「公序良俗に反する投稿をしない」「お客様に関する情報は書き込まない」「社会人としてのマナーを守った言葉遣いをする」など当たり前のことばかりです。
一方で、SNSのユーザー、フォロワーとの関係性が少しでもできていれば、投稿が不謹慎な内容だったとしても「何かのミスだろう」と理解してもらえることがあると思います。

桑江:日々の小さなアウトプットが大事ということですね。

前園:企業の情報を発信する場合、単にプレスリリースを出しただけでは思い描いた状態になりづらいでしょう。企画自体に魅力を持たせることが大事ですが、その土台となるのがSNS上で日々投稿している行動そのものです。SNSで普段は何も投稿していない人が、ある日突然自社の宣伝をしたとしてもあまり響かないでしょうから。
自分が何かを言いたいときだけ「耳を貸してくれ」というのではなく、日頃からお客様との直接的な関係性をきちんと築き、情報を届けやすい状態をつくっておくことが大事だと思いますね。