レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第1回『緊急事態宣言前後の各社の動きとSNSの声』

開催日時:2020年05月13日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

沼田 知之(ぬまた ともゆき)氏

企業の危機管理、独占禁止法/競争法対応を専門とする弁護士。 危機管理分野においては、海外公務員贈賄、製造業の品質問題、粉飾決算・インサイダー取引、相場操縦等の金融商品取引法違反、環境法令違反、反社会的勢力問題、従業員による不正行為等の案件を広く扱った経験を有しており、事実調査、行政当局・刑事当局対応(日本版司法取引への対応を含む)、マスコミ・投資家・消費者対応、原因究明、再発防止策の立案等を含む戦略的な対応を行う。

「炎上」と「神対応」の差は「国民の声に寄り添えているかどうか」

桑江:新型コロナウイルスに関する世論を見ると、2020年3月8日から5月7まで直近2カ月間のTwitter投稿のうち「コロナ」と「炎上」のキーワードが含まれているものは約20万件ありました。
一方、「コロナ」と「神対応」、あるいは「コロナ」と「称賛」のキーワードは約15万件でした。
つまり、新型コロナ関連の「炎上」と「神対応」の件数の割合はほぼ半々のため、批判されるか称賛されるかは紙一重だろうと言えると思います。
逆に言うと、企業としては「自社はどのように対応すればいいのか?」と悩む部分もあるでしょう。

沼田:企業としてはどうしても「炎上」に目が向いてしまいがちだと思いますが、プラスの案件が結構あるのは意外な気がしますね。

桑江:何が両者の差を生んでいるのかを考えたとき、やはり重要なのは「国民の声に寄り添えているかどうか」でしょう。
無理にコロナ禍以前の状態に戻して営業を再開しようとするのではなく、いかに「国民に寄り添った対応ができているか」がポイントです。
「国民」というのは消費者だけでなく、従業員にも当てはまります。
従業員に無理を強いれば批判や内部告発につながる可能性があるため、コロナ禍への対応を考慮するときは自社のサービス、事業だけでなく、従業員をどうするかも考えなければなりません。
「休みがない」「給与が下がった」というSNS投稿などが増えれば、「ブラック企業」という印象を与えてしまうことになります。

沼田:内部告発の件数自体がものすごく増えているとまでは思いませんが、新型コロナとは全然関係のないところで内部告発が上がってくることもあるので注意すべきです。
一般的に企業の不祥事が発生すると、その事案と無関係の内部告発が増えることはよくあります。
新型コロナの感染拡大で労働環境が変わるなど苦しい状況に置かれている人たちが、コロナ禍に起因しない事案を告発するケースもちらほら出てきている印象があります。

「神対応」は採用にも好影響を及ぼす

桑江:国民全体に生活への不安が広がっているので、そういう行動も起こりやすくなっている気はしますね。

沼田:そうですね。消費者の間でも意見が分かれるような施策の是非は、特に慎重な判断が必要な気がします。
例えば、「営業を早く再開するべきか?じっくり待つべきか?」など、どちらを選択しても賛否両論が起こることが避けられないと考えられる場合は、ネット世論を用心深く見極めながら決断した方がいいですね。

桑江:他社がどういう対応をして、どういう反応が寄せられたかというのを随時チェックし、自社の取り組みに活かすことが大事ですね。
コロナ禍に限りませんが、企業の「神対応」は自社のイメージアップだけではなく、採用にも良い影響を及ぼします。
炎上すると「ブラックだ」という印象を持たれてしまうように、厳しい状況下で会社がどれだけしっかり対応してくれたかがブランディングにつながるというわけです。
多くの企業は、そうしたことも考慮しながら、いろいろな手を考えているのではないかと思います。

沼田:東日本大震災の発生時もそうでしたが、ビッグな出来事があったときは、それと結び付けてその会社の行動をインプットすることが多く、人々の記憶に残りやすいと言われています。
「この会社はコロナ禍のとき、こういう良い取り組みをしていた」というイメージアップを図れれば、平時より長期間にわたって持続しやすい効果を期待できるのではないでしょうか。

桑江:2021年は東日本大震災から10年が経ちますが、そのときの記憶は今なお覚えています。コロナ禍に関しても5年後、10年後に思い出すことがあるでしょう。
そのときに「この会社は、ああいうことをやってくれた」、もしくは当時働いていた人が「あのとき、会社はこうしてくれた」と良い印象を回顧してくれる状況を持続させるというのは、確かに重要だという気がします。

「会社の常識は世間の非常識?」と自問する意識を

沼田:逆に言うと、経営する側は「自社の常識が世間の非常識になっていないか?」と自問する意識を常に持っておいた方がいいでしょう。
例えば、人との接触が多い接客業の会社の従業員が「コロナ禍の中で土・日曜も通常営業するのはおかしい」と不満を募らせる中、経営者の元には一部の熱心なお客さんから「平日は仕事があるから土・日曜も営業してもらわないと困る」という投稿や連絡が上がってきていたとします。
そういうときに経営者が「土・日曜に閉めてしまうと売り上げが下がってしまう」と思っているとバイアスがかかり、「土・日曜も営業してほしいという声もあるからやる」という方向に進んでしまいがちです。
自分たちがやろうとしていることが世間にどう評価されるかを客観的に考えておかないと、思わぬ反応のギャップが起きかねないという印象がありますね。

桑江:昨今の炎上は同業他社などに飛び火するというパターンがあると思いますが、逆に言うと過去の事例をしっかりチェックすれば、自分たちがやろうといしていることへの反応もある程度は予測できる可能性があるということです。
本当に、思わぬ反応に見舞われることもありますからね。最近のポスターやCMなどへの批判も同じような流れだと思いますが、新型コロナに関連するものはさらに激しさを増している気がします。

コロナ対応は説得力と誠意を持って伝えることが重要

沼田:各社はリモートワークの対応にも非常に悩んでいます。全員が一斉にリモートワークをしようとなっても、業務の仕組みや設備の面で許されるかどうかという問題が必ず出てきます。企業は、そうした問題への対応についてきちんと説明するというのが一番大事です。
そうでなければ、例えば「コールセンターの従業員は在宅なのに、別の部署の従業員は出社しなければならないのでひどい」という方向に進んでしまうリスクも出てきます。
「この部署の従業員はできるけれど、この部署の従業員はこういう理由でできない。でも、このように対応する」ということを、どれだけの説得力と誠意を持って伝えられるかが大事になるでしょうね。

桑江:おっしゃる通り、会社として最大限の誠意を示せるかどうかが重要になると思います。
もちろん、企業によって経営状況も異なりますので、すべての従業員が満足できる保障をしたくてもできない、従業員を休ませたくても営業しなければならないということもあるでしょう。
これから事業を再開する企業も増えると思いますが、どのように誠意を見せられるかを意識しながら、どう伝えていくかがポイントになると思います。

沼田:こういうご時世なので、どうしてもネガティブな方向に振れてしまうケースも多いと思いますが、その中で「神対応」として評価を得ている事案があるというのは勇気付けられますし、ぜひ参考にしていただきたいと思いますね。

世の中の変化を常にウォッチし続けることが大切

桑江:この1、2週間、店舗などの営業再開の話を耳にするようになりました。経営者や消費者の間には歓迎ムードが広がっていますが、従業員の立場では「現場で働くのは怖い」という声も上がっています。
新型コロナの感染者がまだまだ多く出ている中、どのタイミングで営業再開を決めるのか、それをどのような形で公表するのかということは慎重に考えていかなければならない部分でしょう。
ただし、どれだけ注意を払っても、ネガティブな反応がゼロということはあまりないと思うので、ある程度のネガティブをどこまで許容するかを考えながら対応していくのが望ましいと言えますね。

沼田:先ほど「会社の常識は世間の非常識かもしれないという感覚が必要」とお話ししましたが、このような状況下では世間の常識自体が時系列とともにどんどん変化します。そこを常に見直すことが大事になってくるでしょう。
今までは自粛一辺倒でしたが、これから社会がどんどん動き出すと思いますので、そのあたりの成り行きをしっかりウォッチし続けてほしいですね。

桑江:世の中の状況が刻一刻と変化している中、企業側はどう対応していくのかを考えなければいけないフェーズに入っていると思うので、日々学ぶことが非常に多いという気がします。

沼田:コロナ禍が収束した後は、また違った形の炎上事案が出てくるでしょう。今後の状況を踏まえ、機会があれば私も発信していきたいと思います。