レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第38回『くらたま流メディアとジェンダーとの付き合い方』

開催日時:2021年02月17日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

倉田 真由美(くらた まゆみ)氏

漫画家 元NHK経営委員会委員。1971年福岡生まれ。一橋大学商学部卒業。折からの氷河期もあり就職活動がうまくいかず、漫画家を目指す。23歳で講談社ヤングマガジンギャグ大賞受賞。2000年~2013年まで週刊SPA!で連載した『だめんず・うぉ~か~』がブレイク。ドラマ化もされ、「だめんず」も流行語になり、一躍時の人に。その後、テレビコメンテーター、YouTube等様々なことに手を出して今に至る。代表作は『だめんず・うぉ~か~』『婚活迷宮の女たち』など多数。また、『うさぎとくらたまのホストクラブなび』など中村うさぎとの共著も多い。

自社の顧客を揶揄? 女性像イラストで炎上!

桑江:まずは、ジェンダーに関する二次元イラストの炎上事例を見ていきたいと思います。2018年に起きた事例ですが、飲料メーカーのK社がTwitterキャンペーンでイラストを投稿したところ、「女性客をバカにしている」「不愉快」「二度と買いたくない」などの声が続出しました。自社の紅茶飲料を飲んでいそうな女子として「モデル気取り自尊心高め女子」「ロリもどき自己愛沼女子」「仕切りたがり空回り女子」「ともだち依存系女子」と名付けた4種類の女性像を、それぞれの特徴を説明するコメントとともに紹介して、「確かに私の周りにいるかもと思ったらリツイートしてほしい」と呼び掛けるキャンペーンでした。

※出典:https://www.huffingtonpost.jp/2018/04/30/kirin-gogotea_a_23424066/

このイラストレーターのTさんは、もともとシニカルなタッチで女性を描く作風が特徴の方で、このイラストがK社の紅茶飲料を愛飲する女性を揶揄していると受け取った人から戸惑いの声、怒りの声が続出したと。「自社商品を買っているお客さんを馬鹿にしているようにしか見えない」「顧客を悪く描いて何が楽しいのか」「企画段階で誰もストップをかけなかったのが理解できない」といったような顧客との向き合い方を疑問視する声や、「イラストを見て不愉快になったので正直、買いたくありません」といった声も上がったと。これに関しては、倉田さんから見ていかがでしょうか。

※出典:https://www.huffingtonpost.jp/2018/04/30/kirin-gogotea_a_23424066/

倉田:イラストがない段階でも、どれも悪口としか言えない女子系ですよね。この段階で広告としては大失敗なわけです。イラストも非常に揶揄的であるし、意地悪く描いている。「これが企画段階でよく通ったな」という意見は全くその通りで、私が疑問に思っているのはK側の指定でこういう女子で書いてくれというのがあったのか、作家側の提案でこういうものが出てきたのかを知りたいですね。

桑江:状況証拠を見る限り、イラストレーターはもともとシニカルな作風で人気の方というのが前提にあるのですが、おそらく「〇〇系女子」ということ自体はK社側の企画だと思います。イラストレーターは恐らくオーダー通りに描いたのではないかという気がします。

倉田:だとしたら、オーダーの時点で大間違いですね。私がもし、この依頼を受けたら「これは広告としてはまずいと思います」と絶対に言いますね。それくらいひどい。何人も間に入っているはずなのに、なぜこんなものが通ってしまったのかなと。これは擁護しようがないほどひどいので、炎上は当然の帰結ですよね。

桑江:対象がいわゆる一般的な女性像、誰かを特定せずということならまだしも、ターゲットが自社の商品を買っている人、完全に顧客なんですよね。

倉田:漫画の中で「こういう女子がいますよね」というようなことは何回も描いたことがありますが、そういうときは非常に揶揄的で意地悪く描くわけですよ。当然、広告のようなものとはまったくもって相性が悪いし、あり得ないとしか言えないですね。

広告メッセージは「前向き」が鉄則

桑江:例えば、倉田さんの「だめんずうぉーかー」に出てくる女性をテーマに、こういうイラストを描いてくれという依頼があったとすると、どういう切り口でやりますか。

倉田:広告である以上、前向きでなければだめ。例えば「男と別れちゃったけれど、これを飲んで次に行くぞと心に決めた10連敗中の女子」とか、前向きでいくというメッセージを最終的に入れていかないと、広告としては絶対に成立しないですよね。

桑江:なるほど。そもそものゴール設定が違うということですよね。

倉田:そうですね。広告は基本的に商品が主役。例えば「これを飲んでリセット気分」「飲み物をくれた男にちょっとドキッとしちゃいました」「こういうタイミングでこういうものが出てきたら惚れちゃうよね」とか、基本的にはプラスでなければだめなのに、その大前提をこのご時世に間違うというのは、ちょっと考えられないですね。

桑江:ジェンダー炎上の走り、1つの象徴として取り上げられることが多いキャンペーンです。

倉田:ジェンダーの問題だけではないですけどね、あまりにもひどいので。作家さんも「こういう依頼で書いてくれ」と落下傘的に投げられて描いていたとしたら、かわいそうだなと思いますね。

漫画の巨乳キャラ起用、献血ポスターに猛批判

桑江:続いては、2019年の炎上事例です。漫画とコラボした献血ポスターが炎上したと。若い世代に献血を募るため、漫画とコラボをして主人公の女性をデザインしたクリアファイルを配布するといったキャンペーンを展開しました。しかし、その狙いとは裏腹にTwitterでは問題提起の声が大きくなり、女性弁護士が「公共空間で環境型セクハラしてるようなものです」とツイートし、大きな炎上につながったと。この漫画の主人公のキャラクターは作品を知っている人はみんな分かっているわけですが、そもそもそれを起用した理由や、それに対しての反応というところで、倉田さんはいかがお感じになりますか。

※出典:https://president.jp/articles/-/37182?page=2

倉田:ワイドショーに出演したとき、この話題がテーマに上がってお話ししたことを覚えていますが、その場では人によって解釈が違いましたね。特に男性の方は「どうしてだめなの」「胸が大きい女性がこういうポスターに出たらだめということにはならない」とお話されていた人がいて。言っていることは分からないでもないのですが、私は正直、「なぜこのキャラクターにしたのか」と、いくつかの理由があって思います。1つは、老若男女にあまねく献血を広めていくためのポスターで、一部の人が「性的だ」と嫌悪感を抱くであろうものをなぜ選ぶのかということ。こういうものは「何が悪いのか」という意見より、「なぜこんなものを使うのか」という意見の方が大事なんですよ。例え前者が7で、後者が3だとしても、3の意見の方が重視されるべきなんですね。少数意見だから大事にすべきということではなく、絶対に炎上するであろうキャラクターを選んでしまったというのがまず1つですね。

※出典:https://president.jp/articles/-/37182?page=2

では、実際の巨乳の女性がポスターに出たらだめなのかという話で言うと、実物の女性だったら別に問題ないと思うんですよ。絵だからまずいんです。絵は胸の大きさをいくらでも好きに描けるわけですよね。あえて大きな胸を描くというときには、そこに作者の意図が必ず入っているわけです。わざわざ巨乳にしているという意図に、リアルな女性の巨乳とは違う意味が乗っかるわけですよ。私もイラストで性的なポイントを強調して描くときは当然、そういう意図をもって描きますからね。イラストで巨乳という特別なメッセージが乗っかっているわけです。そういうものを献血のポスターでわざわざ使うというのは、やはりノーセンスだと思いますね。

桑江:整理すると、この漫画の制作側に問題はないと。公共の場で使うポスター、献血という行為に関するポスターに起用したのが問題だという話ですよね。

倉田:そうですね。個人的には巨乳キャラが出てくる漫画で大好きなものも結構ありますが、これは適切ではないと思いますよね。

イラストには意図があり、文字化できる

桑江:これを掘り下げて分析していくと、「性的な女性表像」が炎上する主な理由としては2つ。性的部位への焦点化と、理由のない露出ということになると思います。

倉田:こういうことは未だにありますよね。例えば、フィギュアスケートの女性の衣装は絶対に足が出ているし、見ようによっては性的な衣装と見られなくもないですが、やはりあれが美しいとされているからあの衣装を選んで着るわけでしょうし。理由のない露出に関しては、理由をどこに持ってくるかというところで変わってくる気がします。ビールの宣伝にビキニ姿の女性が出てくるというのも先ほどの漫画のポスターの問題とは少し意味合いが違って、一概に断罪すべきでもないのかなと思っていますね。

桑江:今の差というのはどこから生まれますか。例えば、ビールのポスターはメインのターゲットである男性の目を引くために水着姿の女性を起用するということだと思いますが、先ほどのポスターと比較しての違いは何かございますか。

倉田:一番はイラストであるということ。イラストは意図しかなく、抽象的な言葉に要約できるんですよ。「若い女」「胸が大きい」「嘲笑的なキャラ」などと文字化できる情報なんですよね。でも、リアルな人間の場合はそればかりでもないケースが多いと思っているところはあります。

桑江:極端な例を挙げると、ゴールデンタイムのコント番組で女性の裸が無意味に出てきたり、時代劇で女優の入浴シーンがあったりという部分もある意味、必要があるのか疑問ですが、それがネタ、特徴になってコンテンツが作られてしまっている。今は完全にどちらもNGかなと言う気はしますが、理由のない露出はその辺もありますよね。

倉田:どこまでを理由と取るか。時代劇の入浴シーンは物語の流れ上、接着剤的な意味で必要だと言えなくもないし、悩ましいところではありますよね。いわゆる「ビキニアーマー」、バトル物の女性が全く機能的ではないけれどセクシーでかわいらしい衣装を着ているというのは、別にいいのではないかと思っていますけど。

「タイツの日」PR、行き過ぎた男性目線で謝罪

桑江:そうしたお話を踏まえ、最新の炎上事例を説明します。2020年に最も炎上したイラスト炎上と言えば、タイツメーカーA社の事例。「タイツの日」をPRするTwitter企画の不適切表現に、「性的だ」との批判が相次ぎました。炎上要因は女性をターゲットにした商品にも関わらず、男性目線のマーケティングを行ったことだと言われています。Twitterユーザーの中には「絵自体はかわいいものの、企業がこれを進めているというのが理解できない」「オタクが内輪で盛り上がるには良いが、公式アカウントだとしたら意味が分からない」といった反応も多く見られました。担当者の個人的な趣味や価値観、もしくはインターネット文脈に寄せ過ぎたキャンペーンを企業公式として行った末、企業の見識を問われてしまったと言えるのではないかというところです。

※出典:https://www.atsugi.co.jp/news/pdf/201103.pdf
https://president.jp/articles/-/40354?page=3

寄せられた意見には「商品に罪はない」など擁護の声もありましたが、擁護派からも「今回の企画は微妙にずれていたと思います」といった苦言が出ました。また、否定派からは「一企業として発信すべきことの分別ができていない」「誰が買うか考えていない」などの厳しい意見が相次いだと。最終的にはキャンペーンを中止し、公式サイトで謝罪をしました。

※出典:https://ins-magazine.net/20201104_news103919_overlord/

倉田:25枚あるイラストをすべて見ましたが、全部に問題があるわけではない。「これなら何も言われないだろう」と思うのも相当数あります。一部が炎上を引き起こすきっかけになったと思われますが、どんな広告でも「性的である」というのが一番だめ。タイツは少し気を抜くと性的になってしまう。広告は性的な要素をいかに排除するかを考えなければいけないにも関わらず、スカートをたくし上げたりブランコに乗ったり、階段に座ったり。女子高生を使ったのも炎上の要因になったのかなと思います。広告というものを知らない作家さんが好きなように描いてしまったということでしょうが、こういうことを作家さんに頼むなら「性的なものは絶対に排除してください」という至上命題を会社側は与えなければならなかった。それができなかったのが一番の問題ですね。

桑江:炎上要因の1つは、Twitter運用の担当者がカスタマーファーストではなく、フォロワーファーストになってしまったことだと言われています。何人かで運用を分担していれば、誰かが脱線に気付いて軌道修正するかもしれませんが、実質的に1人で運用していると視野が狭くなり、フォロワーの支持を社会全体の支持と錯覚してしまう。

また、A社の担当者は実は女性だったということが分かっていて、今回は女性もジェンダー炎上してしまったというのが特徴だと思います。なぜ女性担当者がこうした事態を招いたかと言うと、これらのイラストを性的な目で見ていたからではなくて、純粋にきれいな作品だと考えていたからだと。このように、女性であってもジェンダー問題に気付けないケースがある。女性も人によってジェンダー・バイアスは変わるというのが問題提起としてあると思うのですが、そのあたりはいかがですか。

倉田:女性でも結構、差はありますね。特に、ジェンダー問題はものすごく差がある。全く無関心な人もそれなりにいるし、ものすごく敏感な人もいます。男性以上に差があると言ってもいいくらいです。

企業の情報発信、「広告」と「リツイート」では雲泥の差

倉田:スカートのたくし上げや女子高生のイラストは、かなり性的な感じの方に針が振れるものだと思うので、女性の中でも「これは性的だよね」という意見が多いのではないかと思いますけどね。

桑江:実はキャンペーンが始まる前、A社の公式アカウントはこのイラストレーターの作品を何度かリツイートしていました。そのときは何の問題にもならなかったんですよ。

倉田:広告ではないですからね。

桑江:はい、そうなんです。企業の公式キャンペーン、「広告として」というのと「単純なリツイート」では雲泥の差があるというずれに気付けなかった。以前からこのイラストレーターの作品を発信していたので「今回も大丈夫だろう」と考えたのではないかと。そこの部分でいくと、担当者(部門)のリテラシー不足、社内の確認体制の甘さ、リツイート数などの数字を追い過ぎた可能性が指摘されています。個人アカウントでの発信ならOKだったとしても、企業公式かつ広告というオフィシャルな部分は全然違うということを意識しなければいけなかったというのが、A社の事例から学べる教訓でしょう。

倉田:そうですね。

「表情」「顔つき」「ポーズ」は性的要素を排除する

倉田:言いたいのは、タイツを履いている側の女の子が主体であるということ。ここに表情、顔つき、ポーズと書きましたが、これらのすべてを性的なものにしないということですね。タイツの場合は男性に見られていると意識させるようなものは広告として問題になってしまうので、男性から見られるということ、性的な要素をいかに排除するかということですね。

桑江:顔つきも満足げ、得意げという話がありましたが、逆の観点でいくと恥じらいといったものが性的な部分につながるので、排除していくということですね。

倉田:愁いを帯びた目や媚びを含んだ表情、恥ずかしげといったものが入ってくると「性的」に即つながる可能性があるので、消していかなければならないですよね。タイツを履いている本人がすごく満足していて幸せであるということが大事なのに、いかに美しく見えるかに主眼を置いてしまうと危ない。

桑江:A社のキャンペーンのイラストを見比べて、女性担当者同士で「どこまでがOKか」といったところを見ていくというのも、テストとしては面白いかもしれないですね。そこでずれが出た場合に「そのずれは何だろう」というのを話し合うのが、擦り合わせとしては非常にいいのかもしれません。

倉田:イラストであっても18歳未満であろうと思われるような女の子を使うときは、さらに気を付けなければいけないですよね。例えイラストでもミドルティーン、ローティーンなのではないかという女の子を使うときはすごく注意して描かないと、そこに性的なものが入ってきたとき、見る人が見たときの嫌悪感は成人女性のイラストの比はないので、そこは描く側も気を付けていかなければいけないところではありますね。

桑江:イラストはすべて何らかの意図をもって書かれるということを踏まえると、表情、顔つき、ポーズの性的な部分をしっかり排除していくというのが非常に参考になりました。

倉田:繰り返しますが、イラストはすべて文字化できると思った方がいい。それを見つけ出していくと、「これはNGだな」というのが分かってくると思います。どういう意図を持って作家が描いたかというのを文字化してみて、その中の情報を抽出するということですね。

桑江:倉田さんが企業案件でイラストを依頼された際、企業担当者に注意してほしい点はございますか。

倉田:完全なフリーハンドで任されるより、ある程度「こういった感じで」ということを提示していただいた方がやりやすいと思いますね。A社の例でいくと、例えば「年齢層をこれくらいに」とか「こういう感じのシチュエーションに」とか、ある程度、具体的な指示を出していただいた方がやりやすいと思います。