レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第43回『徳力基彦が語る、音声SNS『クラブハウス』の企業活用の可能性と課題』

開催日時:2021年03月24日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

徳力 基彦(とくりき もとひこ)氏

note株式会社 noteプロデューサー/ブロガー。アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 アンバサダー/ブロガー。NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任し、現在はアンバサダープログラムのアンバサダーとして、ソーシャルメディアの企業活用についての啓発活動を担当。note株式会社では、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるブログやソーシャルメディアの活用についてのサポートを行っている。個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載等、幅広い活動を行っており、著書に「顧客視点の企業戦略」、「アルファブロガー」等がある。

「出会い系」の特色を備えた音声配信サービス

桑江:Clubhouse(クラブハウス)は、個人はもとより企業の活用も広がる可能性があります。
日本では2021年1月23日から配信されている「音のSNS」と呼ばれているiPhoneアプリで、基本は1人当たり2人まで招待が可能。ユーザーは「ルーム」と呼ばれる部屋を自由に出入りし、気に入った人の音声をラジオのように聞き流したり、トークに参加したりするのがベーシックな使い方です。
徳力さんは日本でも有数のヘビーユーザーかと思いますが、使い始めたのはいつですか。

※出典:ToKi出版 (著) 『たぶん世界一わかりやすいClubhouse(クラブハウス)超入門書』

徳力:1月26日ですね。「クラブハウスに住んでいる」と公言しています。

桑江:クラブハウスはTwitterなどで拡散されて一気に目につくようになり、気づいたらあっという間に広がった印象です。2月後半以降のツイート件数はかなり落ち着いていますが、急速に盛り上がった理由は「招待制であること」「コロナ禍で失われた“雑談”への飢え」「世間のニーズとの合致」かと思います。

徳力:盛り上がった理由は「“雑談”への飢え」が一番でしょう。2人までの招待制ということで、芸能人が「乗り遅れてはいけない」と一気に入ってきたのも大きかったですね。半面、そうした急激な動きが「ブームになり過ぎてしまい、『既に終わったもの』になっている」という印象を生みました。それがツイート件数の推移にも表れていると思います。

桑江:なるほど。クラブハウスのメリットとして挙げられるのは、「一方通行ではなく対話形式で参加できる」というところ。さらに「記録が残らない」「やり取りのハードルが低い」「スマホから手を離してコミュニケーションできる」「自由度が高い(誰にも通知せず退出できる)」ということも言われています。

徳力:従来の音声配信サービスは「聴くだけ」。つまり、クラブハウスがTwitterだとすると、既存の音声配信サービスはブログです。例えばコロナ禍以前の僕は、セミナーなどに参加すると講師や来場者と名刺交換、おしゃべりをしてネットワーク、知見を広げていました。
クラブハウスは、それをバーチャルなネットサービス上で再現しています。「音声配信サービスというより出会い系サービスに位置付けた方がいいのでは」と言う人も多いですから。

桑江:出会いや交流を生むということですね。

接客や対面コミュニケーションの代替手段になる可能性も

徳力:音声SNSと聞いてもピンとこないかもしれませんが、僕からするとコロナ禍で得られなかった密なリアルの立食パーティー的な感覚を味わえるサービスなんですよね。
音声配信サービスの割に大ブレークした理由の本質は音声にあるのではなく、人と人の出会い、つながりをつくれているという点。特にコロナ禍で渇望されていた新しい人との出会いを演出できるサービスであるというのが一番のポイントだと思いますね。

桑江:企業の間では「ファン同士の交流会」「会社の採用イベント」で活用している形が見受けられ、実際に「公開面接」をしているケースもあります。やはり消費者、顧客との交流を求める使い方が一番マッチしているのでしょうか。

徳力:企業向けの話に特化すると、現時点で企業の皆さんはクラブハウスを深くウォッチしなくてもいいと思っています。なぜかと言うと、一時期のブームで終わる可能性がかなりあるから。「クラブハウスは終わった」という報道も増えていますし、「このまま買収されて終わるのではないか」という専門家の話もあります。
一方で、芸能人がこぞって集まり、メディアも大きく取り上げたことで、ハイプが高くなり過ぎたことも否めません。
要するに、このまま終わってしまうと見方と、いったん落ち込んだ後で普及するという見方があるのですが、注意しなければならないのはクラブハウスがまだ誕生したばかりであるという点です。
TikTokが2年くらいかけて積み上げてきた認知度を1カ月で獲得したと考えれば、ここからTikTokのように伸びる可能性もなくはないでしょう。だからこそ、あわてて飛びつく必要はないということです。

桑江:なるほど。

徳力:その上で、企業の皆さんがクラブハウスを活用するかどうかを考える場合、まずはメリットとリスクを考えておいた方がいいと思います。
クラブハウスの規約はやたらと厳しく見えます。例えば「記録禁止」というルールを守っていないと見られると、1ストライクでアウトになってしまう。でも、それは「コミュニティを破壊する人は許しません」という明確なメッセージを出しているからとも取れます。

桑江:そうなんですね。

徳力:とは言え、お客様とのコミュニケーションを深める上ではリスクよりメリットが大きいと思います。
音声配信やフォロワー数が出ているサービスだと、企業はつい発信に使いたくなると思うんですよね。でも、発信だけを目的に使うならZoomとかYouTube Liveを使う方が分かりやすいでしょう。そもそもiPhoneユーザーしかターゲットにできないマーケティングなんてあり得ませんから。
クラブハウスが面白いのは、お客様に壇上に来てもらって話を聞けるところ。それをすごくカジュアルにやれるサービスなので、顧客の声を聞くとかみんなで相談する、考えることには比較的向いていると思います。

桑江:ファンミーティングのようなものですね。

徳力:京都のタクシー会社はドライバーの空き時間を使い、京都の特徴やお話をリスナーに届けるラジオ的なものをクラブハウス上で始めています。
企業の皆さんは「自社のサービスは音声配信サービスを利用する人と相性が良い」「テキストインターネットが苦手な顧客が多い」と考えるなら、音声配信サービスの活用を考えていいかもしれません。
クラブハウス自体が会社として勝ち抜いていくかどうかは分かりませんが、TwitterもFacebookもクラブハウスと似たような音声配信サービスを被せてきています。
クラブハウス的な音声コミュニケーションが接客や対面のコミュニケーションの代替手段になっていく可能性は、案外あるかもしれません。

桑江:クラブハウスかどうかは別として、音声をテーマにしたサービスの活用は必要になるかもしれないということですね。

宣伝効果だけを狙った企業活用はタブー

徳力:クラブハウスを使ってみてよく分かったのが「ビデオはあまり必要なかった」ということです。「Zoom飲み」が流行らなかったように、お互いの顔を正対してしゃべり続けるシチュエーションは人間社会に馴染みませんでした。「実は目線はいらない」というのが、クラブハウスが提案している1つのヒントだと思います。
Twitterの新しい音声サービスであるSpaces機能は、ツイートを共有できるんです。写真とか画像を共有できれば、ビデオを切った状態で音声ディスカッションができます。
「おしゃべりをする」と考えると、音声だけでもできることが結構あるというのは、今のうちに体験しておくといいと思いますね。

※出典:人気が過熱するClubhouseの「おしゃべり」は、日本のネットの景色を変えるかも(徳力基彦)
https://news.yahoo.co.jp/byline/tokurikimotohiko/20210130-00220257/

桑江:企業の活用というところで、ファンとの交流や採用活動は声だけという気軽さもあって受け入れられやすいかと思いますが、こういうものにも使えそうだというものはありますか。

徳力:やはり、お客さんとの交流会などから始めていくのが一番使いやすいかもしれません。クラブハウスだろうがYouTubeだろうがZoomだろうが、何かイベントをやろうと思うと時間を設定して集客しなければならないので、まずは個人として他の人たちとのおしゃべりを楽しむことから始めてほしいですね、
そう言うと企業活用とは違って聞こえてしまうかもしれませんが、クラブハウスにおけるメインストリームの企業活用は個人同士が仲良くなった結果、ビジネスにつながるというパターンです。クラブハウスに限らず、ネットはコミュニケーションの場なので、最初はコミュニケーションをしに来なければならないんですよね。
企業の方々は最初から宣伝に来てしまいがちなのですが、そうなるとみんな逃げてしまいます。まずは「人と人は音声だけで意外に仲良くなれるんだな」という体験をしていただけば、自社の場合はどんなコミュニケーションを取ればお客様と仲良くなれるのかを想像しやすくなる気がしますね。

桑江:まずは自分が体験しましょうと。

徳力:繰り返しになりますが、コミュニケーションとして体験していただくのが大事だと思いますね。最初から「クラブハウスで物が売れるらしい」という考えで入ってくると、会話の中に土足で上がり込んでしまう感じになりますので。

桑江:確かに、クラブハウスで直接のマネタイズは難しい気はしますね。

徳力:課金機能はそのうち実装されると思いますが、ほとんどの企業はそこで課金ビジネスをしたいわけではなくて、あくまでも製品・サービスの売上を得たいということでしょう。課金はインフルエンサー向けだと思って気にしなくていいと思います。

桑江:クラブハウスはもともと、アーティスト支援をしたいという考えもありますからね。

「記録禁止」でも失言は禁物 晒されて炎上しないとは限らない

徳力:クラブハウスがサービスとして生き残っていくかどうかが不透明な中で、企業が全力を投入するのはお薦めしませんが、「密」を演出できない時代に音声配信サービスでそれを疑似体験できるという感覚は味わっておいた方がいいと思います。
また、クラブハウスでの情報漏洩や失言は企業活用というより、従業員がプライベートで使った場合のリスクだと思います。企業として気を付けた方がいいのは、宣伝にはそんなに使えないということくらいでしょうか。

桑江:宣伝色が強いと、煙たがられると。

徳力:音声が記録されないということへの過信も禁物です。Twitterのようなものはログがテキストで残ってしまうので、それがそのまま炎上のネタになりますが、クラブハウスの場合はアーカイブで残らないので炎上しにくいのは確かです。
しかし、残っていないはずの音声や発言内容がどこかで晒されてしまうリスクは絶対にあります。「記録禁止のメリットがある」と思い込んでしまうと、気持ちが大きくなって失言をしてしまうというリスクが高まるかもしれません。

桑江:過激な発言をしないよう注意していても、インサイダー情報などをポロリと口にしてしまうということは十分起こり得ますよね。

徳力:Twitterだろうがブログだろうがクラブハウスだろうが、言ってはいけないことは絶対に言わないというのが基本になりますよね。

桑江:従業員の個人的な利用をどうするかというルールづくりが必要になるかもしれません。ただ、このままユーザーが減っていく可能性もあるということで、そのあたりも含めて今後の利用を検討していただけばいいのではないでしょうか。

徳力:Android版が出たら「どういうものか」というくらいはのぞいておくと、自社に活かせる可能性のヒントがあるかもしれないというイメージで見ていただけばいいと思います。