レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第4回『コロナで加速する誹謗中傷~ネット炎上の実態と対処法~』

開催日時:2020年06月03日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

山口 真一(やまぐち しんいち)氏

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。 2010年慶應義塾大学経済学部卒、2015年同大学経済学研究科で博士号(経済学)を取得し、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教などを経て、2020年より現職。研究分野は、ソーシャルメディア、フリー・ビジネス、プラットフォーム戦略等。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)をはじめ、テレビ・ラジオ番組にも多数出演。主な著作に『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)、『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(勁草書房)などがある。

コロナ禍の不安、ストレスで炎上が急増

桑江:新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除されますが、SNSでは「本当に元の生活に戻れるのか?」という不安の声が上がり始めています。
専門家は「未知のことに恐怖を感じる」という人間の性質を挙げて「アフターコロナうつ」の危険性を指摘していますが、自粛へのストレスからなのか、過激なSNS投稿が増加。休業中の店舗に「店を閉めろ」という脅迫文が貼られたり、県外ナンバーの車が生卵をぶつけられたりする実害も出ています。
デジタル・クライシス総合研究所が調べた炎上件数の推移を見ると、2020年4月の炎上件数は2019年1月の調査開始以来最多の246件でした。
2019年4月(72件)比べて約3.4倍の増加で、これは新型コロナの影響と考えられます。
2019年1月から2020年4月の1日当たりの炎上件数は約3.6件で、2020年4月に限れば1日当たり約8.2件の炎上が発生しました。

山口:新型コロナの影響で炎上件数が急増しているのは、いくつか理由があります。
まずは、自粛生活が長くなり、そもそもSNS利用時間が長くなっていること。また、緊急事態、災害の発生時は、企業や芸能人や普通の営業活動をしているだけで「このタイミングで私利私欲を満たそうとしている」という不謹慎狩り、自粛警察が横行します。
さらに、私の調査では、うつ病の傾向がある人は炎上に参加する確率がかなり上がるということも分かりました。
社会全体が不安になると、炎上リスクはかなり高まると言えます。

桑江:ネット炎上とどう向き合うのか。炎上を「怖い」と考える人が大半と思われる中、ソーシャルメディアの活用を避けている企業も存在するでしょう。
確かに、ソーシャルメディアで情報の拡散を狙おうとするほど炎上リスクが高まるのは事実ですが、だからと言って全く使わないというのはビジネスチャンスをみすみす逃しているのと同じことと言わざるを得ません。
「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」という言葉がありますが、ネット炎上も実態をよく知らないまま何となく恐れている方も多いと思います。
炎上を怖がる前に、そのメカニズムなどを正しく理解することが重要だと思います。

炎上させているのはごく一部の人

山口:炎上させているネットユーザーの割合はたった0.5%で、200人に1人の確率です。
炎上1件当たりに換算すると0.05%、7万人に1人で、炎上に参加しているのはそれくらい少ないと言えます。
ただし1,000件、2,000件の批判が書き込まれれば、多くの消費者の目に触れるのも確かです。収束するまでの間、被害を受けた個人、企業の担当者には大きな負担が生じるでしょう。
だから、炎上を無視していいわけではないのですが、偏った意見で攻撃してくるのはごく少数の人でしかないことも知った上で対処すべきだと思います。

出典:山口真一著・朝日新聞出版『炎上とクチコミの経済学』

桑江:炎上に参加するのは「暇な人」だと思っている人が多いかもしれませんが、実は「高収入」の「役職者」も多いのですね。
炎上は終日ネットを見ているようなヘビーユーザーが発生させているというパブリックイメージとは大きく異なりますが、この調査結果をまとめられた立場として、どうお感じなりましたか。

山口:私にとっても、この結果は意外そのものでしたね。
ただ、ここから言えるのは、このプロフィールに合う方は皆さんの周りにたくさんいらっしゃるだろうということです。
つまり、皆さんの周りにいるようなごく普通の人がネット上で他者を攻撃しているのだと言えます。

誹謗中傷の最大の動機は「身勝手な正義感」

桑江:そのような方々が、なぜ誹謗中傷に走るのでしょうか。山口先生の調査によると、1つのトピックに執着して繰り返し誹謗中傷を書き込む人の一番の動機は正義感です。
コロナ禍の中でそれが証明されてしまったのが、ネット上で誹謗中傷を浴びた女子プロレスラーが自ら命を絶った事件でした。
「彼女は間違ったことをしているから正してやろう」という正義感で攻撃的な書き込みをした人が多かったのですが、「自分が正しい」と思い込んでいる人に誹謗中傷を止めさせるのは難しく、非常に厄介です。

出典:山口真一著・朝日新聞出版『炎上とクチコミの経済学』

山口:この件もそうでしたが、60~70%の人は「許せない」「失望した」といった正義感から書き込みをします。
そうした正義感は社会全体で共有されているものではなく、あくまでも各人の価値観に基づく感覚です。
しかも、正義感に凝り固まった人たちは書き込みの回数も多くなることが明らかになっています。
書き込みの原動力になっているのが正義感だからこそ、対策を取りにくい。なぜなら、「自分が正しい」と本気で思い込んでいる人たちは、強固なポリシーに基づく書き込みをなかなか撤回しないからです。
多くの人が各々の正義感によって同じ人を吊るし上げるのは私刑と変わらないため、表現の自由を履き違えた行為は止めさせなければならないと考えています。

出典:山口真一著・朝日新聞出版『炎上とクチコミの経済学』

桑江:炎上が加速すると「表現の萎縮」という問題も起こりますよね。
ネット上で頻繁に発信したい人、あるいは炎上しても撤退しない人は極端な意見の持ち主が多いわけです。
こうした人々は自己の正しさを確信して何でも発信しますし、何を言われてもくじけません。
そのため、炎上が発生すると極端な意見だけがネット上に残り、社会全体の論調と乖離してしまう可能性があります。
ネット上の口コミを参考に商品を開発する企業も増えていますが、炎上を恐れるあまり万人受けを狙った中庸な商品しか出回らなくなってしまえば、世の中がつまらなくなる恐れも出てくるのではないでしょうか。

ネットには極端な意見や批判が表出しやすい

山口:多くの社会的課題に対しては「どちらかと言えば賛成(反対)」という中庸の意見が多いのですが、以前の私の調査では「ネットには攻撃的な人が多いと思う」という回答が75%ほどを占めました。
その理由は、中庸の意見を持つ人は自分から発信しようとせず、炎上が怖くてネットの言論から撤退してしまうから。結果的に意見分布が歪み、私の実証研究ではネット上には極端な意見や批判が表出しやすいという特徴が見えてきています。
実際に「憲法改正」のテーマで調査したところ、社会全体で「非常に賛成」「絶対に反対」と主張する人は全体の14%しかいなかったのに、ネット上では何と約半分を占めていました。
ネットと社会全体の意見分布は、それほど異なるということを認識しなければなりません。
それは企業のマーケティングも同じです。ネット上の反応に過度の萎縮をしてはいけないし、自社がものすごく称賛されたとしても極端な意見に過ぎない可能性があることを理解しておくべきでしょう。

桑江:どうすれば誹謗中傷はなくなるのか。政府はSNS上で他者を誹謗中傷する悪質な投稿者の情報開示を簡便化するため、2020年夏をめどにプロバイダ責任制限法の改正を含めた方向性をまとめる方針です。
できるだけ早く対応したいということだと思うので、そのあたりの動きを見ていきたいと思います。
投稿を実名制にすれば誹謗中傷が減ると思っている人は多いでしょうが、意外に効果が薄いということが韓国で明らかになりました。
韓国では2007年に実名制が導入されましたが、悪意のある書き込みはほとんど減らなかったという結果が出ています。
その理由は、やはり正義感が動機になっているから。「自分は正しいことをしている」「相手の間違いを正すために意見を述べている」という気持ちで誹謗中傷を描いている人にとっては、実名制になったところで効果が薄いということです。

山口:プロバイダ責任制限法の改正は、一定の効果があると思います。
なぜかと言うと、被害を受けた人が訴えやすくなるからです。情報開示請求は時間も費用もかかるため、一般の方にとっては相当難しい。手続きがもっと簡便になれば訴えやすくなり、誹謗中傷の予防にもつながると思います。
事実、女子プロレスラーの悲しい事件の後には、大量の書き込みが削除されました。
つまり、誹謗中傷を書き込む人々は「訴えられそうだ」「法的責任を負うかもしれない」となると急に及び腰に転じるので、法改正が抑止力になることが考えられます。
ただし、誹謗中傷は質より量が問題だとも言われているため、何人かを訴えたところで焼け石に水ではないかという見方もあるのは確かです。
また、実名制や名誉毀損罪の厳罰化を取り入れることになれば、10年、20年後に強い政権が誕生した場合に拡大解釈され、政敵の取り締まりなどに使われかねません。
こうしたことから、個人的には法的な規制はかなり慎重であるべきとの立場です。

企業は萎縮せずにソーシャルメディアを活用すべき

桑江:誹謗中傷などの実態をしっかりと把握した上で、どう向き合っていくのかを考えるさまざまな動きが活発化するといいですね。

山口:各ステークホルダーの取り組みを加速させることが非常に重要だと思っています。
投稿者の心理的ハードルを上げることで誹謗中傷を書き込ませないようにすることは大事ですが、ネット上だと相手が人間であるという意識が欠如して攻撃的なメッセージを発信しやすくなるのも事実です。
非対面で気軽に誹謗中傷を書けてしまう中、誹謗中傷を一括でミュートできるような仕組みを整えたり、炎上で視聴率を稼ぐというメディアのビジネスモデルを変えたり、あるいは芸能事務所も批判的な言葉から演者を守れるようにするなど、社会全体で民から取り組んでいくことが情報社会の豊かな発展とネット言論の健全な育成につながると思います。
このまま放置すると、ビジネス的な観点でも良質な口コミが手に入らなくなってしまうといったマイナスの影響が出てきかねません。
そういったことを引き起こさないためにも、みんなで取り組むことが大事だと考えています。

桑江:コロナ禍が落ち着けば、企業側もいろいろなキャンペーンなどを復活させていく必要があると思います。
炎上の実態をしっかりと知り、世の中の状況を把握しながら打って出るということが必要になるでしょう。

山口:コロナ禍の中で「炎上しやすい」「みんながストレスを抱えているときに、どう広報・営業していいか分からない」と悩んでいる企業の担当者は多いでしょう。
でも、こういうときだからこそ、萎縮し過ぎないことが大切です。
SNSの利用時間が長くなっているからこそ、多様なプラットフォームを活用したキャンペーンなども効果を増しています。
つまり、今こそソーシャルメディアマーケティングのチャンスなのです。
炎上の実態を知り、正しく理解した上で過剰な萎縮をしないことが、情報社会におけるこれからの企業活動に求められていると考えています。