レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第52回『コンテクストから紐解くwithコロナの企業コミュニケーション』

開催日時:2021年06月09日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

高広 伯彦(たかひろ のりひこ)氏

社会情報大学院大学特任教授、マーケティングコンサルタント。 博報堂、電通、Googleを経て独立。マーケティング企画やメディア企業の事業開発や営業企画の支援を行う「スケダチ」を設立。 その後、B2B企業のデジタルマーケティング支援に特化した「マーケティングエンジン」を共同創業(のち譲渡)、二年連続でHubSpot社のAgency of the Yearを獲得、他に日本初のB2Bデジタルマーケティング講座を日経BP社と企画するなど、日本におけるB2Bデジタルマーケティングの普及に貢献。 他にSharethrough やTaboolaといったアドテク企業の日本代表や事業開発を兼務し、アドテク・マーテク領域に関する業務を長年経験。 現在は企業のマーケティングや事業開発支援を行いつつ、京都大学経営管理大学院博士課程にてサービスとマーケティング研究を行っている。

コミュニケーションの基盤となる消費者との共通認識

桑江:コンテクストという言葉を日本語に置き換えると「文脈」「脈絡」「状況」と訳され、「コミュニケーションの基盤となる文化の共有度合い」といった意味で使われます。いわば「場の空気を読む」の「空気」に当たる言葉です。
もう1つ、「ハイコンテクスト文化」というのはコンテクストの共有性が高いことを意味し、1つ1つ言葉で説明しなくても察し合える文化を指します。数年前に流行った「忖度」という言葉からも分かるように、日本は世界でもハイコンテクストな国として知られています。

※出典:https://jinjibu.jp/keyword/detl/893/

高広:情報理論の中には「シグナル&ノイズ」という言葉がありますが、ある情報を送ったとき、意図した通りに受け入れられないということが起きます。
1つ目は技術的な問題で、こちらが送信したメッセージそのものが適切に相手に見聞きされる形で届かない状態です。
もう1つは、相手に送ったメッセージがこちらの意図する意味で受け取られているかという問題。さらに、メッセージは単に届くだけではなく、相手に何かの変化が起きないと効果を発揮しないわけです。
企業が行うコミュニケーションの場合、意味が適切に取られるかという問題だけではなく、パーセプション(認識、認知、知覚)に変化が起こるとか何らかのアクションにつながることがなければいけません。こうした考え方は、マーケティング・コミュニケーションや広報にも使えると思います。

桑江:企業側は「メッセージをどのように適切に伝えるか」という視点だけではなく、送った情報がどう解釈されるかという視点も持たなければならないということですね。
特に「人々の認識を変えよう」というメッセージを発信する際、従来の認識を真新しいものに置き換えようと考えがちですが、まずは受け手側(ネットユーザーや消費者)の認知環境を理解する必要があるということでしょうか。

高広:広告や広報で伝えたいことを、どんなメッセージにすれば適切に伝わるかを考えるとき、受け手側がどんなコンテクストに基づいてそれを解釈するのかは意外と気にされていない気がします。
コンテクストは「辞書」のようなもので、ある言葉をどんな意味として解釈するかはコンテクストに基づいているわけです。ある言葉をこういう人々に届けたら、その人たちはこういう背景を持っているからこんな解釈をされるのではないかという予測を立てなければなりません。「受け手側がどういう風に物事を理解するか」を理解することは、マーケティング・コミュニケーションや広報をする上で非常に重要だと思います。

桑江:メッセージの送り手となる企業にとって何が難しいかというと、受け手となるユーザーとの相互理解です。企業が発信したメッセージが想定通りに解釈されず、炎上に発展するケースがしばしばあります。

高広:人間が情報を理解しようとするときは自分たちがすでに持っている昔の情報と、新しく手に入れた情報の関連性の中から考察していきます。
少なくとも人々が情報を持っていないという前提でスタートするのではなく、ある情報を受け取る人はそもそもすでに何らかの情報を持って生活していると考えるべきでしょう。それらの情報や文脈による解釈を想定したコミュニケーションを考えなければならないということです。

購買意欲を刺激する「空気づくり」こそPRの役割

桑江:コミュニケーションを取る相手が持っていると思われる旧情報の中身は、どう把握すればいいのでしょうか。

高広:あくまでも1つの例に過ぎませんが、自分たちの商品が所属しているカテゴリーについて、その人たちがどう考えているのかをアンケートやテキストインタビューなどでリサーチした情報を2次利用するということです。

桑江:なるほど。企業コミュニケーション活動におけるコンテクストの留意点を解説いただけますか。

高広:広報やPRの世界では「空気をつくる」という話が出てきますが、企業コミュニケーションにおける空気づくりとは何なのかを探る場合、空気がない状態とある状態の差を考えなければなりません。
ある商品が世の中に受け入れられるときは何らかの空気、雰囲気が存在するはずです。例えば、外出するときはマスクをしなければいけないという空気があると、マスクを買うという行為に対して違和感がなくなるわけです。
商品を買うことや企業への信頼感、安心感を与えるもの、商品や企業の一番外側にあるコンテクストが空気ではないかと思います。
つまりコンテクストには、お客さんへの説明をショートカットしてくれる効果があるわけです。空気がある状態だと、たくさんの言葉を並べなくても相手が理解してくれますから。

桑江:コンテクストプランニングの技法は、コンテクストを解釈して理解する技法と、コンテクストを生み出す、紡ぎ出す技法の組み合わせだと考えていいのでしょうか。

高広:コミュニケーションプランニングとかコミュニケーションデザインは、メディアに捉われない企画を考えることが重要だということから始まった経緯があります。
ただ、コミュニケーションはお客さんと企業の間でコンテクストを共有しないと成立しないので、両者のコンテクストを理解してつなぐというのがコミュニケーションプランニングのスタート地点です。
そこから、自分たちの商品、ブランドとお客さんを結び付ける新たなコンテクストとは何だろう、ないしは現状のコンテクストで使えるものは何だろうということを考えるということです。

企業コミュニケーションを占う「4つのコンテクスト」

桑江:コミュニケーションプランニングを行う上で、把握しておくべき具体的なコンテクストは何でしょうか。

高広:まず、「コンシューマーコンテクスト(消費者文脈)」は、ある商品カテゴリーについて、お客さんがどう考えているか。「ブランドコンテクスト(ブランド文脈)」はある企業、「インダストリーコンテクスト(所属産業文脈)」はその産業自身が持っている歴史的背景やどう見られているかという視点です。
そして「パブリックコンテクスト」は、ある商品カテゴリーについて新聞やテレビなどのマスコミはどういう論調で報じているか。これら4つを見ていくと、自分たちが販売しようとしている商品がどう解釈される可能性があるかが見えてきます。

※出典:高広伯彦著『次世代コミュニケーションプランニング』(SBクリエイティブ出版)

桑江:例えば、この1年ではマスクを巡るパブリックコンテクストが変わってきたということになりますか。

高広:そうとも言えます。世の中のコンテクストが変わってきた結果、マスクの意味合いが変わってきたという感じですね。同じ物でもコンテクストの変化によってそのものが持つ意味が変わることがあります。コンテクストはある時期におけるスナップショットのようなもので、時間が過ぎれば変化することは普通にあるわけです。

桑江:4つのコンテスクトにそれぞれ当てはめて、分かりやすい具体例はあるでしょうか。

高広:例えば以前、大手ハウスメーカーのA社が女性向けの注文住宅を商品化しました。パブリックコンテクストで言うと、一般的な住空間に男性用の部屋(書斎)と子供部屋はありますが、女性用の部屋はないという共有できるコンテクストが存在します。
一方、住宅業界のインダストリーコンテクストは、女性用の空間は洗面化粧台と洗面化粧室ですが、実際にそこで化粧をする人はあまりいません。なおかつコンシューマーコンテクストの視点では、家庭内でもリラックスできる空間を求める働く女性が増えています。
さらに、A社には日本で初めて子供部屋のある住宅商品を売り出したというブランドコンテクストがありました。
これらの4つのコンテクストが重なり合うところには、他の企業やブランドが持てないようなユニークネスが見つかるという考え方で開発したのが女性向けの注文住宅です。

桑江:なるほど。

高広:もう1つは結婚相手紹介サービスのB社の例です。パブリックコンテクストの観点では「結婚疲れ」のキーワード検索が増えていて、コンシューマーコンテクストを把握するための調査では結婚相手紹介サービスが「自分が好きになれる人と出会う場所」として認識されていないことが分かってきました。
さらに、インダストリーコンテクストのポイントとしては当時、あらゆる結婚相手紹介サービスの広告は花嫁衣裳を着た女性がアイコンとして使われていて、恋愛結婚を望む人が多い中で一足飛びに結婚をイメージさせるような広告しかなかったのです。
そこで、自社のブランドメッセージを「結婚相手紹介サービス唯一の上場企業です」から「結婚したくなるぐらい好きな人探し」という結婚の一歩手前のコピーに変えました。

桑江:4つのコンテクストを整理した上で、コミュニケーションを変えたということですね。

※出典:高広伯彦著『次世代コミュニケーションプランニング』(SBクリエイティブ出版)

コンテクストを共有できる人だけを集める手もある

高広:コンテクストを共有するためにコミュニケーションを考える方法がある一方で、広告に掲載した数式の難問を解けた人だけが採用サイトにたどり着けるようにしたGoogleの社員募集のように、コンテクストを共有できる人だけを集めるという戦術もあります。

桑江:ある種のフィルタリングですが、これもコンテクストを使ったうまいやり方ですね。

高広:ブランドのコンテクストを変えたケースとして、イタリアのあるバッグブランドは商品価格を大幅に上げる「デ・マーケティング戦略」を取りました。顧客数は相当減ったでしょうが、ブランドの価値を共有できる人たちが買ってくれるようになったはずです。
利益率は高くなるので、残ったお客さんたちで売上が落ちた分をカバーできればビジネスとして成立します。商品・サービスに価値を感じてくれる人たちとの間で、何らかのコンテクストが共有されているということですね。

※出典:高広伯彦著『次世代コミュニケーションプランニング』(SBクリエイティブ出版)

桑江:コンテクストを紐解く上で大切にしている部分や注意している箇所はありますか。

高広:コンテクストに限らず、マーケティング活動は大体そうだと思いますが、自分自身の思い込みのようなものをどれだけ排除できるかが大事です。一方で、直感の部分を深掘りすると答えが見つかることもあります。変な話ですが、自分自身のバイアスを排除すればしようとするほど直感力、野生の勘が働く気がします。

桑江:4つのコンテクストを把握するには、メディア、ユーザー、企業が発している情報ごとに分けて考えるべきなのでしょうか。また、ブランド文脈の視点はどのように把握したり情報を拾ったりすると良いですか。

高広:そもそも世の中で話題になっていないキーワードは検索もされません。キーワードへの興味・関心を発生させているのはニュースや業界における何らかの話題です。
Googleトレンドに出てくるキーワードはコンシューマーサイドやバイヤーサイドなどを含めたパブリックコンテクストを表現している場合があるので、そのあたりから調べる方法はあります。また、1つのトピックについて新聞や雑誌で似たような語り口が3つ4つあれば、世の中で形成されているコンテクストが存在すると考えられるでしょう。
ブランド文脈のコンテクストは、その企業が過去にどういうものを生み出してきたか、発表してきたかを調べていくのが最初かと思います。