レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第57回『芸能界から見る炎上リスクとキャスティング』

開催日時:2021年07月14日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

小林 敬宜(こばやし たかよし)氏

松竹芸能株式会社 常務取締役。 1974年、東京生まれ。1997年松竹入社。映像部門でライツ、アニメ、邦画の制作・編成を担当。 現職は、松竹芸能セールスプロモーション部、タレント開発・WEBコミュニケーション事業部、経営管理部を担当。 兼務として、市川海老蔵丈のメディア施策・ブランド構築も担当している。

タレント教育で最優先のSNS研修

桑江:昨今の芸能界をめぐっては、インターネットを通じたタレントへの誹謗中傷や粘着質なアンチによる攻撃が目立っています。所属タレントをネット炎上から守るため、芸能事務所として意識していることはありますか。

小林:我々が一番気を付けているのが、新人時代を経て少し売れ出すタイミングです。また、プロになろうと養成所に通っている時期も、自分のSNSをどう見せていけばいいのかということについて「とにかく注意しなさい」と言っています。
プロになる前の投稿内容が将来、揉め事の原因になってしまうかもしれません。「愚にも付かない書き込みは今のうちに削除するか、表現を変えておくように」と指導しています。

桑江:研修のような場も設けているのですか。

小林:はい。養成所は毎年4月に開講しますが、4、5月のうちに説明しているのがソーシャルメディアのガイドラインです。中堅クラスのタレントも集め、改めて研修を受けさせています。

桑江:炎上リスクに備えては、所属タレントの家族もケアしているのでしょうか。

小林:所属タレントは個人事業主なので、事務所として日常的に家族をケアするまでの体制は取っていません。ただし、何かトラブルが起きた場合は全面的にフォローします。
一方、所属タレントに対しては特段、SNSの利用制限はしていません。今の時代はSNSを使うのが当たり前で、YouTuberも芸能人と言われるほどです。だから「自分を出せると思うなら極力発信してください」と推奨しています。

桑江:松竹芸能はYouTuberプロダクションのUUUMと業務提携していますね。

小林:プロジェクトに参加するオンラインタレントはYouTubeで活動していますが、半年に1回程度のコンプライアンスセミナーを受けないとサポートを得られません。

桑江:松竹芸能としても昨年、公式Twitterを開設しました。所属タレントの素を発信するような運用がユニークだと感じますが、そのような方向性は意図的なのでしょうか。

小林:「公式」となると、どうしてもタレントのインフォメーションばかりになってしまいがちです。そこで、インフォメーションではなくエモーションを提供するよう心掛け、なるべくタレントの素顔を見せるようにしています。
情報を発信する立場をわきまえつつ、お客さんにとって何が面白いかを考えながら運用しているところです。所属タレントも面白がってリツイートしてくれて、そこでボケとツッコミができているので、公式たる形ができ始めています。

謝罪の判断基準は「被害者がいるかどうか」

桑江:昨今はSNS上に限らず、何らかの不祥事を起こしたタレントへの風当たりが非常に強まっていると思います。事務所として、発生したトラブルをめぐって謝罪するかどうかの判断基準は設けていますか。

小林:まずは、明確な被害者が存在するかどうかということですね。誰かを侮辱したなど直接的に困らせてしまった人がいれば、SNSで釈明する前に会社として謝罪に行きます。原因を突き止めた上で、はっきりとした被害がなければ静観することが多いですね。

桑江:所属タレントが不祥事を起こしてしまった場合、スポンサーなどの契約関係にある企業にはどう対応するのでしょうか。

小林:先般、歌舞伎の舞台で人種差別的との誤解を招く表現がありました。その件がSNSで炎上した際、メディアからの質問に真摯に答える広報対応はしましたが、会社の姿勢としては静観したところです。
ただし、スポンサーさんに対しては、どんな状況なのかをいち早くお伝えするようにしています。イメージというものをお買い上げいただいている以上、我々は公演などに変なイメージがついてしまうことを一番気にしなければいけません。
今回の件でも、先方の担当者が社内で事の次第を説明しやすいよう、演出の修正内容も含めて詳細に報告した経緯があります。

炎上リスクを防ぐ「第三者の目」

桑江:所属タレントが政治批判など議論を生むような行動、発言をした結果、スポンサー側から何かしらの反応が寄せられたというケースはありますか。

小林:僕自身はそのような経験はないのですが、日頃から「政治的な発言は繰り広げないで」という話はしています。自分の書き込みが「そうじゃないだろう」と批判されたとき、ついカッとなって言い返してしまうのが一番危ないですね。

桑江:所属タレントに政治的な発言を控えるよう求めているのは、そうした言動がスポンサーからネガティブに捉えられる可能性があるということでしょうか。

小林:タレントは自分の見え方を意識する必要があるので、常に「第三者の目」を持っていなければなりません。新人の育成過程では「そのような視点を持ちなさい」という話をしています。
「こういう発言をすると、どう受け取られるか」は、第三者の目を持っていなければ分からないでしょう。急に売れ始めたタレントが危ないのはそこで、SNSで大きな間違いを起こしかねない落とし穴でもあると思います。

桑江:売れる前から第三者の目を持つことを学んでおけば、失言などのリスクを減らせるということですね。裏を返せば、すぐに投稿できてしまうSNSは気の緩みなどが反映されやすいとも言えます。

小林:そうですね。所属タレントには「お酒を飲んでSNSを触らないで」という話はしています。企業の皆さんの広報活動も、第三者の目を持つことがすごく大事だと思うんですよね。

身近な表現の場だからこそ…SNSのメリットとデメリット

桑江:タレントによるSNS発信のメリットとデメリットは何でしょう。

小林:メリットは24時間気軽に、マスメディアより身近な場所で自分の表現を皆さんに伝えられることですね。これまでは「あのテレビ番組に出たい」と思ったら、出演交渉をして枠を勝ち取らなければいけませんでした。SNSは直接的なファンとの絆が生まれるのもメリットと感じています。
デメリットは情報の出し方を間違えると大きな波に飲み込まれるとか、「自分の投稿がウケている」と勘違いして暴走する人も出てくることです。リスクは大きいですよね。

桑江:所属タレントに対し、ダイレクトメッセージ(DM)などによるファンとの直接的なやり取りは禁止しているのでしょうか。

小林:事務所として特段のルールはありません。デビューしたばかりのYouTuberはすべてのコメントに「ありがとうございます」と返すところから始まりますしね。

桑江:所属タレントがSNSで情報を発信する際、事務所として内容をチェックしていますか。

小林:1つずつチェックするのは大変ですし、チェックしなければならないとも思っていません。それよりもセミナーを受けるなどして正しい知識を得てもらえば、それほど間違ったことはしないだろうと考えています。
とは言え、知識がありながら嫌がらせのような発言をしたタレントもいました。そういう人には「君の投稿はマネージャーがチェックしてからね」と伝えたことがあります。

タレント起用時は過去投稿の事前チェックを

桑江:自社のプロモーション活動に特定のタレントやインフルエンサーの起用を考えている企業から、SNSの炎上リスクなどの事前チェックを依頼されるケースが増えています。そのようなリスクを防ぐために松竹芸能が取り組んでいることはありますか。

小林:飲酒をしたらSNSには触れないでというのもそうですが、研修で指導しているのは「嘘をついてはいけない」「人気が出始めているときなど自分が気持ちいいときこそ気を付けよう」「他人の悪口を言わない」「自分が頑張っていることをPRしない」という点ですね。
あとは、「誰かが作った楽曲や他人の顔を使ったコンテンツを勝手に投稿してはいけない」とも伝えています。マネジメントサイドはタレントを守る義務があるので、何か不安があったらまずは相談してくださいということです。

桑江:企業がキャスティングをする際、炎上リスクをしっかり管理できているタレント、事務所を見極めるポイントを教えてください。

小林:過去の発言でおかしな主張をしたことがある人は、SNSに何らかの痕跡が残っていますからね。身辺調査と言えば大袈裟ですが、SNSをさかのぼれば何となくでも分かるはずです。
また、起用を考えているタレントなどを実際に使ったことがある会社に聞くのもいいでしょう。芸能界というのは以外と狭く、仕事を紹介し合うネットワークもあるので、それを利用できれば安心かと思います。

桑江:芸能人が本業である芸能の才能より、私生活の素行やSNSのプライベートな発言が注目されがちになっている近年の状況をどうご覧になっていますか。こうした中で、所属タレントや未来のタレントたちに望むことは。

小林:どんなに叩かれたとしても、自分の芸をしっかり持っている人はそこにちゃんと戻ってきます。自分が追求するべき芸事をきちんと理解している人が、最終的に伸びていくでしょうね。
所属するタレントに望むのは、そのような幹をどうつくるか。自分は世の中に何を求められているのか、どうすれば皆さんに楽しんでいただけるのかを真剣に考えている人が強いのだと思います。

桑江:企業がクリエイティブなどのキャスティングを検討する際も、そういう姿勢で活動しているタレントかどうかを見極めればトラブルを防げるかもしれませんね。

小林:その通りです。