レポートCases / Reports

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナー

第62回『ブランドから生活者へ、今捉えるべきコミュニケーションのあり方とは』

開催日時:2021年08月18日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

森 啓子(もり けいこ)氏

株式会社エフアイシーシー 代表取締役。 米マウント・ホリヨーク大学 BA(文学士)、米マサチューセッツ芸術大学大学院 MFA(美術学修士)課程修了。 米国デザイン・広告会社で勤務後、2005年、FICCに入社。2019年、代表取締役に就任。 ブランド・マーケティングを専門とするFICCの経営戦略のコアに「学際的リベラルアーツ」を掲げ、個人の想いや学びから価値を創造し続けるイノベーティブ組織を目指す。

企業やブランドの社会的意義が問われる時代

桑江:ソーシャルメディアの「炎上」が企業やブランドに及ぼす影響は大きく、企業側が発言しづらくなっている側面もあると思います。そのような状況を打開するため、生活者に対するコミュニケーションのあり方をどう捉えるべきでしょうか。

森:新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちは今まで経験したことのない社会の状態と向き合っています。生活者の価値観が変化し、SDGsの本格的な流れも到来した中、企業やブランドの社会的意義が生活者に選ばれる状態にならなければ、市場自体がつくられないでしょう。

桑江:なるほど。

森:今までのブランディングはCSR(企業の社会的責任)にとどまり、ビジネスの活性化を狙った消費者へのコミュニケーションがマーケティングと分けて捉えられてもいたのですが、今の時代にそう考えるのはリスクになると思います。
ブランディングはブランド独自の意味を社会、生活者の中に創造することで、マーケティングは市場をつくるという意味です。これらを融合していくのが「ブランドマーケティング」という考え方です。ブランドの社会的意義が生活者に求められる市場をつくっていくためにも、ブランドのコミュニケーション、スタンスがぶれてはいけません。
コロナ禍で未来が見えにくい今だからこそ、ブランドの社会的意義によるメッセージやアクションを貫き続けることが求められています。

桑江:メッセージやアクションを貫くという意味では、2020年に「日本には差別がある」ということを描いたスポーツメーカーN社のCMが話題になりました。SNS上ではネガティブな反応が45.9%を占め、普通なら「炎上」と言えなくもありません。
しかし、ネットニュースの記事では「批判コメントすら取り込むメッセージ戦略ではないか」という見立てがありました。我々が運営しているメディアの記事でも「事前に想定した状態であり許容できる範囲であったとするならば、N社にとっては『成功』であったかもしれない」と伝えています。
つまり、ある程度の批判を承知の上でも伝えたいメッセージと企業姿勢がある場合、当初の想定範囲での批判・反応であればその企業にとっては炎上ではないということですね。

森:「炎上」したからクリエイティブを取り下げるというのは本末転倒ですが、現実にはそのような事態に追い込まれてしまう企業も存在します。大切なのは、SNSの中で議論が生まれているかということです。SNS上に「余白」をつくり、自社が意図した議論を促すことが求められます。
マスの時代のように1つのメッセージを伝えて終わりというのではなく、むしろ生活者の認識をどう変えていくかが大切なのです。そうした中で「炎上」を起こさないために、ブランドがどういう社会的意義と姿勢を持ち、何が起こるまで許容するのかを想定しておくことが重要なポイントだと思います。

桑江:「炎上」したからといってすぐに取り下げてしまうのは、伝えたいメッセージや企業姿勢がぶれているからという可能性もありますよね。

「時代の空気感」だけを捉えてしまうと失敗する

森:そのように、企業が意図しない状態をどう回避すべきでしょうか。例えば、最近の広告表現で「多様性」をアピールしないケースはほぼ見受けられないと思います。半面、どのブランドの広告を見ても「多様性」が取り上げられているので、ブランドごとの独自性を見出し切れていない状態に陥っているように思えてなりません。

桑江:その通りですね。

森:それらは「時代の空気感」だけを捉えたことによって起きている事象だと言えるでしょう。ブランドはしっかりとした理念を持ち、生活者にベネフィットを提供しながらどのようなコミュニケーションを行っていくかを練る必要があります。

桑江:自分たちのブランドが持っている社会的意義をきちんと理解した上で、独自の市場をつくっていくためのコミュニケーションのあり方を考えるべきということですね。

森:併せて、ブランドに既存の社会的意義があることによるリスクも見ていく必要があります。「炎上」を起こさないためには、3つの視点を捉えていくことが重要です。
まずは世の中の流れやトレンド、社会情勢、時事問題など「時代の空気感」をしっかり理解する。そして、コロナ禍で社会の不安が増しているからこそ、どういうコミュニケーションを届けていくべきかという「生活者の価値観」を捉えなければなりません。
その上で、生活者の中にある「ブランドの意味」を認識する必要があります。これから「リポジショニングを取りたい」「ブランディングを進めていきたい」という場合は、今までのブランドの文脈もしっかり把握した上で3つの視点に立ち、どこに向かってメッセージを発信するべきかを考えることが重要だと思います。

生活者とのギャップを埋めるコミュニケーションが必要

桑江:生活者が企業の理念や社会的意義などを深く理解しないまま、表象的に「他社と類似しているものがある」「多様性に欠ける」といった批判をすることもあるかと思います。企業のメッセージを正しく伝える上で、それまで積み重ねてきた企業ブランド以外に留意すべき点はありますか。

森:SNSを見ていると「スピーディーに判断し過ぎ」という声が多いことに気付かされます。日本の教育は覚えたことを暗記して答えを出すという側面が強かったので、問いに向き合って熟考するという文化が深まっていません。だから、人種差別などグローバルで向き合うような問題になると、コンテクストが足りない状態で議論されてしまいます。
日本の生活者のコミュニケーションの取り方などを文化の視点で理解しながら、どういったコンテクストレベルで伝えていくべきかを考えることが重要でしょうね。

桑江:SNSにおいて100%の賛同を得られるということはあり得ず、難癖が出るのも避けられない中でコミュニケーションを取らなければならない場合もあります。こうした状況での「炎上」はブランドの社会的な意義や価値を超えており、企業側がコントロールできるようなものではないという指摘も聞かれるのですが。

森:例えば「ブラック・ライブズ・マター」や「多様性」といったムーブメントだけに乗ってしまうと、ブランドマーケティングのプロではない生活者は「この企業はどんな社会的意義に基づいてコミュニケーションを取っているのか」という「余白」を頭の中で埋めることができなくなります。
生活者が考える既存の社会的意義と、企業側がこれから打ち出そうとしているものにギャップがあるなら、そこを埋めていくコミュニケーションを併せて取るべきです。そうしたコミュニケーションをつくるためのヒントは、ブランドが持っている資源にあります。
ブランドがこれまでやってきたことと全く関係ないところに穴を掘りに行くのはどうしても無理があるので、ブランドが今まで取り組んできた文脈とこれから掲げていきたい旗との間のギャップをどう埋めるかというストーリーテリングが重要になるでしょう。

桑江:「炎上」をうまく回避できた例で見受けられるのは、生活者とのギャップを埋めるための企業側の動きです。想定される批判をかわせる「武器」を事前に用意しておけば、ファンの人たちがそれを使って擁護してくれることがあります。
つまり、企業は手を出さなくてもファンの方々が反論してくれるということですが、それができるかどうかはギャップを埋める動きの有無に懸かってくるのではないでしょうか。

森:ファンはブランドの社会的意義を理解されている方々で、ネガティブリアクションに走るのはそうではない方々に分けられます。
ただし、両者がコミュニケーションを重ねて対話するのは良いことですよね。みんながきれいに「そうだね」と受け取ってしまえば何も生まれませんから。ブランドが社会にメッセージを発信したときに、生活者の間でどういうコミュニケーションが生まれるかが重要だと思います。

「ブランドコミュニケーション」から「ブランドアクション」へ

桑江:そのようなコミュニケーションの活発化に向け、企業がソーシャルグッドな動きなどを自分たちで発信することもあると思いますが、あざとさが見えてしまえば「炎上」するかもしれません。生活者の反発を買わないように発信する上でのアドバイスはありますか。

森:広告コミュニケーションだけに頼らないことが大きなポイントです。「ブランドコミュニケーション」は「ブランドアクション」と言われる時代に入っているので、組織の中で取り組んでいることを外に出していくことが大切です。
出そうとしていることを組織で体現できる状態にし、組織の中での取り組みを重要なストーリーの材料として自分たちの言葉で発信していくことが重要ですね。