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ウェビナーレポート:【第64回ウェビナー】第31回~60回ランチタイムウェビナー総集編(前編)

開催日時:2021年09月01日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

―危機管理広報

炎上対応には法務、広報部門の連携が不可欠

桑江:最初のテーマは「危機管理広報」です。その重要なポイントとして、沼田知之氏(西村あさひ法律事務所弁護士)からは「法務視点(法的に違法かどうか)と広報視点(社会的に適切かどうか)の両方の視点が必要」との指摘がありました。

前薗:このウェビナーの直前まで、あるクライアントからクレーマー対応の相談を受けていたのですが、広報はネット炎上を恐れるあまり過剰な対応をしようとしていました。
一方、法的視点が欠けていたがゆえに社内は右往左往してしまっていたため、「『法的にどうか』という解釈もしっかり取り入れた上で、会社としての対応を判断すべきではないか」という議論をしたところです。

桑江:炎上騒動では、広報部門と法務部門がうまく連携しなければなりませんね。広報の担当者も法務的な素養を身につけるべきですし、法務の担当者も広報的なコミュニケーションや戦略的対応の重要性をきちんと理解しておくべきです。広報、法務で一緒に記者会見の練習をするなど連携強化の機会を設けることが必要でしょう。

前薗:ネット炎上の現場では、「法的にどうか」という議論はあまり出てこなくなっているとも感じています。どちらかと言えば社会通念やモラルの観点で議論が進むことが多いので、法律上の最終的な防衛ラインは確認しておきつつ、その上位概念に社会通念やモラルを位置付けるべきという点をお伝えしたいですね。

専門家の意見や世論を活用した経営層への働き掛けが効果的

桑江:また、田端俊太郎氏(田端大学塾長)は「炎上が怖いから何も発信しないというのは間違った考え方。『ワンマン社長のイエスマン』になるなら広報の意味がなく、『こんなことをしなければならないなら辞めます』と言える覚悟を持つべき」と説きました。
とは言え、サラリーマンの立場でこれらを貫くのは、なかなか難しい場合もあるかと思います。もし、自分たちが言いづらいのであれば、第三者の専門家の意見を活用しても良いでしょうし、世の中の論調を根拠として出すこともできるのではないでしょうか。

前薗:SNS上で以前、ネガティブな声がかなり寄せられていた食品メーカーの例を挙げましょう。経営層は当初、「どうせネットの声だけだろう」と冷ややかな反応で、現場や製品の改善・改良になかなか着手していただけませんでした。
そこで、現場の担当者と我々が「何とか経営層を動かせないか」と話し合った末、「競合他社と比べて自社がどれだけ悪く言われているかを提示しましょう」ということになったのです。そうして実際にレポートを出してみたら経営層の顔色が変わり、3カ年計画まで立てて取り組みを始めたということがありましたね。

―非実在型炎上

PV数至上主義が招いた悪しき風潮

桑江:なるほど。次のテーマは「非実在型炎上」です。2019年と比べると、2020年は炎上のニュースを初報として取り上げたネットメディアが2倍以上に増えました。つまり、炎上ネタを扱うメディアがかなり増えたということですね。
新型コロナウイルスの影響による巣ごもり需要の高まりもあり、ネットの利用時間などが増えました。そうした中、気軽に取材に出歩けなくなったメディア側が楽に記事を書けて、うまくいけば収益にもなるという理由で、炎上ネタに目を付けたのだと思います。

前薗:2021年もコロナ禍が続いている中で、非実在型炎上のトレンドも継続するでしょうね。

桑江:鳥海不二夫氏(東京大学大学院工学系研究科教授)の解説によると、メディアの収入イコール広告という状況下では、ネットメディアの収益はPV数で決まります。
閲覧数が多いほど高収入になるので、経営的には内容がどうということよりPV数が多い方が良い記事になってしまうと。そうなると、PV数を増やすために「タイトル詐欺」などが起こり、さらにエスカレートすれば大げさな表現、あるいは全く存在しない話をでっち上げてしまうといったことも起こりかねません。

前薗:企業としてはまず、しっかりファクトチェックをすることが大切です。自社の発信などに関するSNS上の反応が切り取られた場合、どう反論を組み立てていくかというところは社内で十分話し合うか、我々のような専門業者にご相談いただくようにした方がいいと思いますね。

「悪魔合体」のコタツ記事メディアへの広告出稿はリスクになる

桑江:そうですね。ヨッピー氏(Web)は普通に記事を作るより、コタツ記事で完結させる方が数十分の一もコストを安く済ませることができるということを明かしてくれました。
仕事をしたくない代理店などと「悪魔合体」した金儲け至上主義のコタツ記事メディアが、広告クライアントに対して誠実な仕事をするわけがないとも主張。「公称PV数を鵜吞みにしない」「PV数の報告にだまされない」「過去の事例にだまされない」という点に注意すれば、コタツ記事メディアを見極めることができて、無駄な発注をせずに済むというアドバイスもありました。

前薗:この問題はアフェリエイト広告と近いのですが、広告収入を得るという形でメディアが成立してしまっているため、制御するのは非常に難しいですよね。

―ジェンダー炎上

「チームに女性がいればOK」は間違い

桑江:続いては「ジェンダー炎上」についてです。倉田真由美氏(漫画家、元NHK経営委員会委員)は「ジェンダー問題は女性同士でも捉え方がさまざまで、女性の中にも嫌悪感や過剰反応を持つ人が一定数いる」と指摘。「『クリエイティブ制作などのチームに女性を入れておけばOK』というのは間違い。女性が担当者だったとしても、ジェンダー炎上が起きることはある」と警鐘を鳴らしました。
女性が担当者でジェンダー炎上が起こる背景としては「組織内での序列が低い、あるいは女性が少数派で意見が通りにくかった」「男性社会や男性向け市場に馴染む中で男性社員と視点が似通ってしまった」「純粋に問題があると感じなかった」という点を挙げましたが、実際にこうしたことが炎上の原因になるケースはよくあるでしょう。
特に、キャンペーンや広告は多くの人の目に触れることになります。今までの自分たちのファン以外の人、つまりコンテクストを共有できる相手ではない人の誤解を招き、あらぬ批判を受けてしまうケースも十分起こり得るということです。

前薗:まさに、その通りだと思いますね。

―SNS媒体の特性とビジネスへの活かし方

投稿内容のチェックなどリスク管理が重要

桑江:さまざまなSNS媒体の特性とビジネスへの活かし方についても、それぞれの専門家の方からお話がありました。
このうち、松重秀平氏(テテマーチ株式会社取締役COO)に解説していただいたInstagramは、認知から購買まで一気通貫で弱点がないSNSと言われています。Instagram自体は拡散力が強いわけではないので、企業の公式アカウントの投稿が直接何らかのリスクになる可能性も少ないでしょう。
ただ、一部では企業の公式アカウントに内部告発や批判、クレームが書き込まれたケースも見受けられますので、そうした場合の対応マニュアルは用意しておく必要があると思います。

前薗:最近はストーリーズの危険性も非常に高まっていますよね。

桑江:投稿内容は24時間で消えますし、基本的にはフォロワーしか閲覧しないので安心しがちですが、ここ2年のバイトテロ事件のほとんどはストーリーズの投稿に起因していたのが実態です。企業の社員教育でも「ストーリーズを過信するのは危険だ」ということをしっかり伝える必要があると思います。

前薗:InstagramはリールやIGTBなど新機能がどんどん登場しているので、それらの確認を怠るとクライシスの火種になってしまう可能性があるでしょう。
機能のアップデートに関する情報はしっかりとキャッチアップして、どのような形で自社のリスクになり得るのかということをしっかりお考えいただいた方がいいと思います。

桑江:リスク管理の観点だけで言えば、最も影響力のあるTwitterさえモニタリングしていればいいわけです。しかし、ポジティブな内容も含め、Instagramで自社のブランド・商品がどう言われているのかをチェックするのも大切なことでしょう。要するに、自社関連のタグでどんな投稿がされているのか、どんな文脈で語られているのかということです。
そうした書き込み自体はポジティブであることが多いのですが、Twitterとは違った形で語られている内容をマーケティングデータとして認識しておく必要があると思いますね。
ただし、投稿を自動収集できるモニタリングツールはないので、基本的には目視しながら確認せざるを得ないのですが。

前薗:そうですね。

桑江:最近はTikTokに参入する企業もかなり増え、うまくいっている企業キャンペーンも出てきています。一方、ユーザーにコンテンツ作りを委ねてしまうので、何らかの不適切な投稿があった場合にどうするのかといったところは留意すべきポイントです。
フォロワー数に関係なくバズるTikTokは拡散性が高い半面、Instagramと同様に投稿内容を監視するのは難しいので、リスクの発生に気付かないまま妙な広がり方をしてしまうことも起こり得ます。この点は、社内でしっかり共有しておく必要があるでしょうね。