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DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

ランチタイムウェビナーレポート

第67回『オリンピックとワクチン問題に見る論調変化と真偽の見極め方とは?』

開催日時:2021年09月22日(水) 12:00〜13:00(11:45~入室開始)

パネリスト

桑江 令(くわえ りょう)

シエンプレ株式会社 主任コンサルタント 兼 シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所 主席研究員。 デジタルクライシス対策の専門家として、NHKのテレビ番組に出演したり、出版社でのコラム、日経新聞やプレジデントへのコメント寄稿も担当。一般社団法人テレコムサービス協会 サービス倫理委員も務める。

古田 大輔(ふるた だいすけ)氏

株式会社メディアコラボ 代表取締役。1977年福岡生まれ、早稲田大政経学部卒。2002年朝日新聞入社。社会部などを経て、アジア総局員、シンガポール支局長。帰国後はデジタル版を担当。2015年10月に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年6月に独立し、株式会社メディアコラボを設立。フリーランスのジャーナリスト/メディアコンサルタントに。その他の役職に、インターネットメディア協会理事、ファクトチェック・イニシアティブ理事、Online News Association Japanオーガナイザー、早稲田大院政治学研究科非常勤講師など。共著に「フェイクと憎悪」など。

メダルラッシュで埋没したネガティブ反応

桑江:東京オリンピックと新型コロナウイルスのワクチン問題は、ここ数カ月間の社会におけるメインの話題の1つです。まずはオリンピックの論調の変化について、弊社の独自調査の結果を基に振り返りたいと思います。
オリンピックの開会式の前後に「オリンピック」か「パラリンピック」の調査キーワードが含まれたツイートをポジティブ、ネガティブで分類しました。そのデータによると、7月23日のオリンピック開会式に向けて大きく上回っていった状況が見受けられます。
オリンピック開幕前後の1週間はポジティブな反応が7割ほどを占め、「日本」「選手」「観る」といったキーワードが増えました。

古田:オリンピックへのポジティブな関心が盛り上がるきっかけは、毎回同じです。それは開会式直後に始まる「柔道」のメダルラッシュで、今回も踏襲されたと感じます。
もう1つの注目ポイントは、ポジティブは急増したけれどもネガティブが急減したわけではなく、むしろ増えたということです。
今回の場合、新型コロナの感染拡大、あるいは予算の使い過ぎなどが理由でしたが、オリンピックにネガティブな感情を持っている人は、インターネット上で「オリンピックはいいね」という声が増えてくると、やはり反論したくなったでしょう。
ただ、もともと非常に強く反対する人はそんなに多かったわけではありません。さらに、ポジティブとネガティブの中間層は、ネガティブなことをツイートする材料、つまりネガティブなニュースが減ったことに影響されました。
「オリンピックの準備が混乱している」「開幕が近いのに新型コロナ患者が急増している」といったそれまでのニュースが選手の活躍で埋没したため、ポジティブな反応が増える傾向が見られたということですね。

桑江:弊社が開発したAIを駆使するモニタリングツール「モニタリングDX」での調査(2021年8月3~16日)結果を見ると、東京都における新型コロナの新規感染者数が1日5,000人を初めて超えた8月6日を境に、ネガティブな反応が再び大きく増加しました。
しかし、サムライジャパンや女子レスリング、女子バスケットボールなどメダリストの活躍により、再びポジティブが急増します。
調査期間中のツイートのピークは閉会式翌日の8月9日で、過去最多のメダル獲得を喜んだり選手に感謝の気持ちを伝えたり、運営やボランティアのスタッフねぎらったりするポジティブな投稿があふれました。

古田:1日5,000人超の新規感染者数の発生をきっかけに、オリンピックにもともと反発していた人たちは「やはりオリンピックは良くない」とツイートし、中間層からも「感染者数がここまで増えると怖い」という投稿が増えました。それは自然の流れだったと思います。
ただ、「1日5,000人超え」のニュースも、2、3日続けば反応が弱くなってくるのは当然でしょう。
一方、オリンピックのアスリートは日替わりでヒーローが現れたわけです。そうしたニュースに対するポジティブな捉え方が続いた中で、結果的にネガティブな感情の割合が低下したのだと感じました。

※出典:https://news.livedoor.com/article/detail/20756028/

桑江:まさに、それがSNSの論調の変化をつかむポイントだと思います。ちなみに、オリンピック期間中のツイートを見ると、ニュートラルを除けばポジティブが約6割、ネガティブが4割ほどで、オリンピック開催の是非に関するツイートが全投稿の約8割を占めました。
エンゲージメントが多かったツイートには、ポジティブなものもネガティブなものもあり、緊急事態宣言と併せての言及が多かったですね。

企業アカウントも予期せぬ拡散に注意が必要

古田:注意すべきなのは、フォロワー数が多い人がエンゲージメントを稼いでいるというわけではないということです。注目されるイベントに絡んだツイートだと、それなりのリツイートを得る可能性があります。
それなりのリツイートを得るとインフルエンサーに届く可能性があり、そのインフルエンサーがリツイートすると爆発的に広がる可能性があるのです。
「フォロワー数が少ないから、自分のツイートなんて誰も見ていないだろう」と思い込み、注目されるイベントに関して「何か過激なことを言ってやろう」と投稿してしまうと、とんでもなく広がり、自分が想定するユーザー層以外にも伝わってしまうかもしれません。
炎上は大体、そういうときに発生します。例えば以前、「バカッター」と呼ばれる不適切投稿が批判を浴びましたが、なぜそんなことを発信したのかというと、自分の友達にしか届かないと思っていたからです。
「自分たちのフォロワーは面白がってくれるだろう」と投稿したものが大きく拡散する状況は、企業アカウントでも十分に起こり得ます。そこはぜひ、注意していただきたいですね。

桑江:パラリンピックに関するツイート数はオリンピックよりは少なかったのですが、ポジティブとネガティブの推移はほぼ近い動きでした。

古田:日本代表の選手の活躍があったのはオリンピックと同じで、パラリンピックは開会式と閉会式の演出も良かったという反応がポジティブなツイートを増やしたと思います。
さらに、新型コロナの新規感染者数もパラリンピックの開幕直前がピークで、期間中は右肩下がりでした。もし右肩上がりだったら、かなりネガティブな投稿が増えたかもしれません

「ワクチン不妊」の間違った情報が拡散

桑江:次のテーマは、新型コロナのワクチン問題の論調変化と真偽の見極め方についてです。
東京大学大学院の鳥海不二夫教授の調査によると、1~7月のツイートのうち「ワクチンが不妊や流産につながる」という間違った情報の投稿が約11万件に上り、その半数の5万件超がわずか29アカウントからの投稿が発端でした。
計473件の投稿がリツイート機能で5万3000件まで増幅してTwitterで拡散し、29アカウントのうち医療関係者を名乗る人物のアカウントは1つしかなかったということです。

※出典:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC03A6M0T00C21A8000000/?unlock=1

古田:海外でも同じような「ディスインフォメーション・ダズン(偽情報を発信する1ダース)」という報告書が出ています。それによると、新型コロナワクチンに関する世界中の誤った主張やデマの65%が、わずか12アカウントから発信されたものでした。
こうしたことから分かってくるのは、ものすごく拡散しているように見える情報も、元をたどれば限られた人たちが発信しているということです。それがどういう人たちかというのをきちんと分析していくことが、間違った情報に惑わされないための予防策の1つになると思います。

桑江:米疾病対策センター(CDC)ではワクチンに関するO&Aのサイトを設け、何が誤情報かを例示しています。
日本でも「NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ・ジャパン」でそういった情報を提供していて、そのあたりをしっかりウォッチしていくのも惑わされないための対策になるかと思います。

フェイクニュースで分類される「誤情報」と「偽情報」

古田:間違った情報は、新聞やテレビのニュースに紛れ込んでいるだけではありません。むしろそれ以外の方が多く、ツイートなどネット上の書き込みや広告、漫画、映画など何にでも紛れ込んでいます。
それらを分類するときに、専門家がよく使うのが「ミスインフォメーション」と「ディスインフォメーション」という言葉。ミスインフォメーションは発信した本人に悪気のない誤情報、ディスインフォメーションは意図的に操作された偽情報です。
発信者の意図もしっかり読んで対処しなければならないのがフェイクニュース問題の難しさで、例え医者であっても誤情報を流している人はいますし、偽情報を書き込んでいる人もゼロではありません。
自分の信念でそうした情報を広めている人もいれば、お金儲けのためにそうしている人もいるため、「信頼できる」と思える専門家、専門機関の話を聞くことが重要になってきます。

桑江:「反ワクチン」のツイートに関しては、ミスインフォメーションとディスインフォメーションのどちらが多いと分析されていますか。

古田:最初に発信された、でたらめな情報を心から信じ込んで拡散している可能性もあるため、ディスインフォメーションがミスインフォメーションも変わることも考えられます。その逆もまた然りなので、専門的な知識がなければ分析するのは難しいでしょうね。

桑江:確かにそうですね。

古田:例えば、「ワクチン接種後に何人が亡くなった」というデータがありますが、ワクチン接種後にたまたま突然死された方もたくさんいます。それがニュースで報じられると、因果関係が立証されていないのに「こんなに多くの人が亡くなっている」と受け止められやすいのです。
さらに、亡くなった方の遺族や友人が「ワクチン接種後に亡くなった」とツイートすることもあります。もちろん、その人たちには「誰かをだましてやろう」という意図などありません。むしろ正義感から注意喚起したいと考えて発信しているのですが、それが科学的に正しいかどうかはまた別の話だと思います。

炎上対策にも通じる予防と対応準備、指揮命令系統の明確化

桑江:そうしたお話を踏まえ、フェイクニュースに関して企業のSNS担当者が注意するべきことは何でしょうか。

古田:最初に気にするべきなのはSNSの公式アカウントですね。公式アカウントが偽情報に引っかかったり、オリンピックのように注目されるイベントについて誤った言動をしたりすると当然批判されるため、基本的なリテラシーを学んでおく必要があります。
また、Twitterを利用している社員がどんなことをツイートしているのかを把握しておくべきでしょう。有名な企業であればあるほど、「一社員がツイートしただけ」という言い分は通じなくなってしまいます。
1人の社員の匿名アカウントだったとしても、身分がばれるのはどんどん簡単になっていますし、発信者の開示請求も以前よりずっとしやすくなっていますので、社員の方々にも予防策として一定のリテラシーを教えておいた方がいいですね。
さらに、予防策だけではなく、実際にトラブルが起こったらどうするかというマニュアルも、きちんと整備しておくことが望ましいと思います。

桑江:炎上の事態に備え、指揮命令系統をはっきりさせておくことも大切ですね。

古田:実際に炎上すると、たいていはドタバタしてしまいます。すでに炎上している段階で100点満点の対応はなかなかできません。
そのような状態になると、人によって言うことが変わってきます。「すぐにツイートを消して謝罪しよう」「ツイートは消さない方がいいけれど、謝罪はしよう」、あるいは「目立たないように無視しよう」と主張する人も出てくるわけです。
最終的に誰がどの対応をするのかをきちんと決めておかないと、対応を決めるまでに2日も3日もかかってしまい、その時間が新たな炎上の要因になってしまいかねません。だから、とにかく素早く意思決定ができる指揮命令系統をつくっておく必要があると思います。

リテラシーの基礎は「検索」テクニック

桑江:企業の広報や危機管理などを担当されている方々が、デマやフェイクニュースに惑わされず、炎上に巻き込まれないようにするためのアドバイスはありますか。

古田:繰り返しになりますが、「炎上対策をするための基本的なリテラシーを身につける」「対応策のマニュアルを準備する」「指揮命令をきれいにしておく」ということが企業として最初に取るべき行動だと思います。
基本的なリテラシーを身につける上で重要だと思っているのは、特にミスインフォメーションにだまされないようにするための方法で、ネット上の情報を確認する基礎を養うということ。その基礎とは「検索」ですね。
たいがいの間違った情報は、ネット上を検索すればそれを否定する正しい情報が見つかります。ただし、そこに行き着く方法が分からない方が多いのです。
検索のテクニックを習得すれば、正しい情報を一瞬にして見つけられるので、デマやフェイクニュースにかく乱される被害を防げるようになるでしょう。
僕は今、そういう趣旨の記事をまとめているので、ぜひ読んでいただけたらと思います。