インタビューInterview

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

第1回JDCアワード

【第1回JDCアワード】【ジェンダーレス賞受賞インタビュー】株式会社ラッシュジャパン様

商品名変更で社会の多様性に配慮

シエンプレ株式会社(以下、シエンプレ):まずは「ジェンダーレス賞」受賞、おめでとうございます。

株式会社ラッシュジャパン 小山 大作様(以下、小山様):本当にありがとうございます。このたびはこのような賞を頂き、大変光栄です。

シエンプレ:早速ですが、「ダイバーシティ&インクルージョン」というテーマを掲げられ、商品名変更に着手されたきっかけをお聞かせいただけますか。

小山様:はい。今回の取り組みをお伝えするに当たり、もともと弊社がどのような考えを持っている会社なのかということをご説明させてください。ラッシュは今から約25年前、複数の共同創立者によってできたブランドです。化粧品ビジネスを通じてさまざまな社会問題を解決しながら、地球上に共存する人も動物もハッピーに暮らせるような活動をしていこうと考えて立ち上げました。それは現在も掲げているラッシュの信念という、私たちがお客様にお約束するブランドプロミスです。

例えば、化粧品を作るに当たって動物実験を絶対に行わない、あるいはハッピーな人がハッピーな化粧品を作ることができるという考え方などがあります。つまり私たち社員がハッピーであれば、お客様にとってもハッピーな商品をお届けできるという考え方です。すべての人が自分らしく生きていける、誰もが平等に幸せに暮らせることを目指しているという意味も含まれています。このような信念を持ち、私たちはビジネスをして参りました。創立以来変わらない弊社の信念として、私たちのバイブルのように存在しています。

ですからビジネス上の様々な判断をする際は、必ずこの信念に立ち戻って「この決定は正しいのか」と考えています。実は創立以来変わらないものに、2017年新しい一文が加わりました。「私たちは誰もが世界を自由に行き来して、その自由を楽しむべきであることを信じている」という内容です。

その頃、英国のEU離脱問題や欧州のシリア難民問題、米国の移民入国制限問題などが起こった背景があります。我々も自由に行き来できたからこそ、グローバルでビジネスを展開でき、ここまで成長できたと考えています。「All are welcome, Always」いつでも誰でもwelcomeするという考え方を私たちは創立以来大切にしていますので、この問題を受けて新たな一文を入れることになったのです。このような考え方から、誰でも平等に受け入れるということを、常に考えて行動してきました。

シエンプレ:なるほど。すでに基礎がある企業様だったのですね。

小山様:そうなんです。ですから昨年5月、アメリカのミネアポリスでジョージ・フロイドさんが警官に殺害された事件をきっかけに世界中でブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)のムーブメントが湧き起こった際、私たちもこの問題に真剣に向き合いたいと考えました。

私たちは化粧品のビジネスをしながらも、キャンペーンという形式で世界中に存在するさまざまな社会問題をお伝えし、変化を起こしていくための働きかけを行っています。

今回もブラック・ライヴズ・マターのキャンペーンをやろうとしていたのです。しかしふと社内を見渡すと、英国の創立者はじめ、経営メンバーを見てみると全員が白人でした。

シエンプレ:そうだったのですか。

小山様:そうなんです。全く意図したことではありませんでしたが、英国で働くスタッフの構成として白人の割合が多いことに気づかされました。ブラック・ライヴズ・マターで問題視された社会の中に存在する「構造的差別」が、もしかすると私たちの社内にも存在するのかもしれないと考えました。これを機に私たちは一度立ち止まり、「ダイバーシティ&インクルージョン」の観点から真の意味で「All are welcome, Always」を体現できているのか振り返ることにしました。私たちは世界中の仲間と見直しを図り、新しいアクションを起こしていくことになったのです。その活動の1つとして、ブランドの核となる商品にも注目しました。

シエンプレ:なるほど、そういう経緯があったのですね。

小山様:私たちの扱う商品の名前は非常に特徴的で、ストーリー性あってお客様に親しまれているものが多いのですが、それらの商品名も「ダイバーシティ&インクルージョン」に配慮しているか否かを見直しの対象としました。商品自体はすべて英国で開発していますので、英国で全商品名の見直しを始めました。全600種類以上に及ぶ商品の一部には、日本独自の名称を付けているものがあります。

シエンプレ:はい。

小山様:そこで日本独自のネーミングについても見直しを図ることになり、受賞させていただくきっかけになった日本での商品名変更が決定いたしました。今回まず変更の対象としたものは、性別や宗教を連想させるもの、人種をイメージさせるものなどです。

シエンプレ:なるほど。

小山様:はい、このような背景があり、今回の商品名変更をブランド全体で決断いたしました。

シエンプレ:ありがとうございます。確かに創業以来、しっかりとした軸がおありの企業様なので、自然の流れと言えば自然の流れと言えるのかもしれませんね。

小山様:そうですね。倫理観を大切にしながら、私たちはいろいろな決断をしていく会社です。そのアクションの1つとして今回の対応があったということです。

シエンプレ:なるほど。もちろん昨日今日突然動かれたとは考えていませんでしたが、さまざまな社会問題に当事者意識を持ち、解決に向けて働きかけていく役割を担うという姿勢は、まさにSDGsを体現されている企業様だという印象を受けました。御社にとっては当たり前のことかもしれませんが、私にとってはすごく新鮮なんですよね。「そうしていかなければ」と思いながらも、「どこから手をつけていけばいいのだろう」と考えていましたので、改めて勉強させていただくことが多いです。

小山様:どうもありがとうございます。

社員全員の意識を高めるワークショップを継続

シエンプレ:それにしても、これほど大きな一歩を踏み出されて、2020年は御社にとっても印象に残る変革の年だったのではないですか。

小山様:そうですね。これほど大きな変革なので今でも継続しています。社内でも「ダイバーシティ&インクルージョンとは何か?」を考えるワークショップを定期的に行って、話し合う機会を継続的に設けています。

シエンプレ:素敵ですね。

小山様:社員1人ひとりがもう一度原点に戻るというか。本当に自分たちは業務上で、職場の仲間との会話の中でも、それを理解して行動できているのか振り返るきっかけになりました。私たちの歩みの中においても大きな変革の年になったと言えると思います。私も一社員として変化を実感しています。

シエンプレ:そうでしょうね。ちなみに、ワークショップはどれくらいのスパンで、どの程度時間をかけて行っていらっしゃるのですか。

小山様:最低でも月1回は行うようにしています。始めた頃はワーキンググループを発足して「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進するメンバーを選出し、毎週1時間の定例ミーティングを設けて「どのように進めていくか」「どういうコンテンツを作っていくと社内の会話につながるのか」を話し合いました。

外部の方に一切入っていただかず、本当に自分たちだけで取り組んだので、正解のないテーマを前に「あるべき姿はどういうものなんだろう?」「私たち1人ひとりが自分らしく働ける環境とは何か」、そして私たちだけでなく「お客様もラッシュと関わると自分らしく居られる存在。」となるためには何が必要なんだろうと話し合いを重ねました。これは今でも続いています。

シエンプレ:今も継続されているのですね。ワーキンググループは何人くらいで構成されていたのですか。

小山様:10人くらいですね、私もそのメンバーの1人です。

シエンプレ:毎週1時間とは、大変な取り組みですね。中でも一番苦労されたことは何ですか。

小山様:正解のないことを推し進めようとするところですかね。手探りで前進する難しさを感じました。大切な決断は経営メンバーも一緒に考え、このテーマを大切なことだと捉えて、それぞれがコミットして動いています。しかし、社員全員を巻き込むということは本当に簡単なことではないんですよね。

シエンプレ:そうですよね。

小山様:はい。本当の意味で全員がこのテーマについて考える機会をどうやってつくっていくかということは、今でも苦労しながら考えています。

シエンプレ:それはそうですよね。意識が高い人も低い人も、もちろんいらっしゃるでしょうし。ワーキンググループは、やはり現場も知っているベテラン社員、日本で言う管理職の方々で構成されていたのですか。

小山様:いいえ、20代も入るなど、幅広い年齢層で取り組んでいます。商品名変更の際は別のワーキンググループも発足して進めましたが、どのグループも性別や年齢の偏りなくメンバーを募っています。

シエンプレ:そこもこだわっていらっしゃるのですね。

小山様:はい。このテーマは管理職だけでやっていくものではないと思うので、偏りなく募っています。

ポジティブな反応が続出

シエンプレ:2020年、一番うれしかったこと、収穫があったと思われる取り組みは何ですか。

小山様:商品名変更の取り組みに対し、外部から非常にポジティブな評価を頂けたことが非常にうれしかったですね。メディアの方々に取り上げていただいて評価していただけたことはもちろんですし、ソーシャルメディア上でもとてもポジティブなコメントを多く見られたことが非常に印象的です。
これまでも日本では、障がい者やLGBTQ+など特定のコミュニティについては話し合われてきたと思いますが、今回は非常に大きな枠組みに対する取り組みでした。このような反響を受け、日本でも「ダイバーシティ&インクルージョン」が必要とされていることに気づかされました。

シエンプレ:仲間が増えたような感じで、心強かったのではないでしょうか。

小山様:そうですね。本当におっしゃる通りです。私たちの取り組みは間違っていなかったんだなと思いました。賛否あるテーマだと考えていますので簡単ではないと理解していますが、これからもこういう評価をいただければうれしいです。

シエンプレ:御社の取り組みが前向きな評価を受けるというのは、そういうことなのでしょうね。日本で今、最も旬な話題かもしれません。

小山様:確かにそうですね。

シエンプレ:私も何か動かなければという元気を頂きました。本当にありがとうございます。

小山様:そう言っていただけるとうれしいです。でも、私たちが大切にしている考え方にご納得いただけないこともありまして、LoveかHateのいずれかに大きく分かれてしまうブランドとも言えるかもしれません。

シエンプレ:なるほど。主張を明快に打ち出されるとそうなるんですね。

小山様:ええ。動物実験反対のメッセージが書かれたショッピングバックに購入された商品を入れて電車に乗るのが嫌だというお客様もいらっしゃいました。そのようなお客様には、ご自身のショッピングバックに入れていただくか、別に販売させていただいている風呂敷(Knot Wrap)を使っていただくようご提案しています。当社が本気で変化を起こしたいと考え取り組んでいることは、お客様に取り組んでいる理由をご説明し、できるだけご協力いただけるようにお願いしています。それが私たちのブランドの考え方です。

シエンプレ:分かりやすいですね。常に明快に自分たちの主張を打ち出されているからこそ、賛否が分かれてしまうのかもしれませんね。その分、根強いファンもたくさんいらっしゃるのが強みなのでしょうね。

小山様:そうですね。でも私たちは賛否があっていいと思っていますし、さまざまな意見が交わるきっかけとなるアクションを行うことに価値があると考えているんです。私たちは物事が良い方へ変化していくためにテーマを投げかけるような存在でありたいと考えています。お化粧品を買いに来られて、社会問題にもちょっと目を向けていただけるきっかけをご提供できる存在でありたいのです。

シエンプレ:そこが評価されているんだと思います。マーケットに問題提起される企業様がいらっしゃるおかげで、日本でも新しい時代に目を向けるきっかけを得られますし、世界中がつながっていく契機にもなり得ると思います。やはり学び合う友として存在できるのは理想的ですよね。

小山様:学び合えると言えば、弊社には以前からフィードバックをし合うカルチャーがあります。ポジティブなことはもちろんですが、改善点、私たちで言う「伸びしろ」も互いに言い合える環境です。これは日本だけじゃなく世界中のラッシュのカルチャーなんです。社員には「失敗しても良い」と言っているんですよ。レベル感の差はありますが、失敗してもチャレンジすることを大切にしています。

シエンプレ:心理的安全性が、きちんと根付いていらっしゃるんですね。

小山様:そうですね。もちろん何でも言えばいいということではなく、ちゃんと聞いてもらえる言い方で伝えるという気遣いは忘れないように心掛けています。

お客様のライフルタイルに寄り添い続ける

シエンプレ:今後はどんな目標を掲げられていますか。

小山様:これからも、化粧品ビジネスを通じて変革を起こせるような取り組みを行い、社会や環境にポジティブなインパクトを与えられる存在になりたいと思っています。

シエンプレ:なるほど。最後に、御社のファンの方々へメッセージを頂けますか。

小山様:はい。これからもラッシュはお客様のライフスタイルに寄り添っていけるような存在として、商品の良さはもちろんですが、皆様のライフスタイルにも何かポジティブな影響を与えられる存在でありたいと思っています。これからも、応援していただけたらうれしいです。引き続き、よろしくお願いいたします。