インタビューInterview

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

第2回JDCアワード

【第2回JDCアワード】【ロイヤリティ醸成賞受賞インタビュー】株式会社ヤッホーブルーイング様

自社制作記事の配信からUGC活用にシフト

シエンプレ株式会社(以下、シエンプレ):御社は2020年12月から、公式通販サイトの販売促進活動にUGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用し、大きな反響を呼んでいます。UGCの導入に踏み切ったきっかけを教えてください。

株式会社ヤッホーブルーイング ケビン様(以下、ケビン様):UGCの活用を始める前は、公式通販サイトのお客様に対してインタビューを実施し、記事を作成していました。情報リッチなコンテンツで非常に良かった半面、お客様にアポイントメントを取ってお話を伺い、記事を書くのと同時に写真も手配するのは時間も手間もかかります。
そのため、新しい記事を毎週のように配信するというわけにはいかず、「今月の限定ビールに合わせた販促をしたい」と思っても、タイムリーな記事をフィットさせるのが難しかったのです。
また、お客様のインタビューとは言え、記事自体は弊社が作成しているため、どうしても「企業発信」と受け止められてしまうという課題もありました。
そうした中、EC業界で広がっていたのはUGCの画像、特にInstagramの画像を活用する手法です。弊社もずっと興味は持っていたのですが、公式通販サイトの売り上げを伸ばすために思い切ってチャレンジすることにしました。

ケビン/桂馬 拓也(けいま たくや)様
YES!通販団月組(通販事業ユニット)
2017年にヤッホーブルーイングに新卒入社し、通販事業ユニットに所属。2020年より現職。公式通販サイト「よなよなの里」を運営し、商品の企画開発、デジタルマーケティングの推進、サイトリニューアルを実施。ネット通販を通じた販売最大化だけでなく、定期宅配サービス「ひらけ!よなよな 月の生活」を中心としたファンとの絆づくり活動、マーケティング活動促進に取り組む。

シエンプレ:UGC活用の先行事例として参考にされた企業やアカウントはありますか。

ケビン様:新たな試みで特に力を入れたのはクラフトビール定期便「ひらけ!よなよな月の生活」というサブスクリプション商品なので、サブスク業界の企業様の取り組みを参考にさせていただきました。
例えば、会員制生ビールサービスのホームタップをはじめ、生鮮宅配のOisix、コーヒー豆のPostCoffee、完全栄養食のBASE FOODなどの魅力的なUGCの活用術をよく拝見し、勉強させていただいていますね。

「#本にあうビール」「#ネコに乾杯」 投稿型キャンペーンに大反響

シエンプレ:御社のUGC活用の手法は、あらかじめ設定したハッシュタグのテーマでコンテンツを募集されているのが特徴かと思います。例えば「#本にあうビール」など、もともとオウンドメディアで展開されていたテーマと連動させたということでしょうか。

ケビン様:公式通販サイトへのUGCの導入は、お客様に商品の魅力をお伝えすることでお買い上げ率を上げることにチャレンジする目的だったので、オウンドメディアの中身とは切り離し、お客様が投稿してくださったさまざまな作品の中から活用させていただきました。
ただ、将来的には、お客様とUGCを使った企画を行い、それを公式通販サイトに転用するといったことも考えられると思います。

シエンプレ:販促活動に用いられるUGCは、どのような視点で選んでいらっしゃるのですか。

ケビン様:一般に、ECを利用するお客様の気持ちが盛り上がるのは「決済(購入)した瞬間」と「商品が届いた瞬間」と言われています。そこで、まずはクラフトビールが届いた瞬間にフォーカスしてUGCを掲載してみたのですが、お買い上げ率は変わりませんでした。
そのため、「お客様はどんなUGCを見るとワクワク感が高まり、クラフトビールを買いたくなるのだろう?」という視点で改めて検討した結果、クラフトビールを楽しんでいるUGCに効果があることが見えてきました。
例えば、料理とクラフトビールを並べたシーンや、アウトドアで味わうシーン、あるいはペットと一緒にというように、クラフトビールをどう楽しんでいるかに焦点を当てたUGCの成果が高かったと思います。

シエンプレ:御社の場合、自社のオウンドメディアでどんな記事が読まれるかというノウハウ、データの蓄積があるのも、効果的なUGCを選択される際の強みになるかと思います。

株式会社ヤッホーブルーイング ぎん様(以下、ぎん様):ペットに関しては、よなよな編集部(オウンドメディア運用ユニット)で「#ネコに乾杯」というキャンペーンを始める前から、「水曜日のネコ」というビールと猫の写真をSNSに投稿してくださる方がいらっしゃいました。
「ひらけ!よなよな月の生活」に関しても、自宅に届いたクラフトビールの缶を画面いっぱいに並べた写真が投稿されていたのです。そういう投稿を公式アカウントでリツイートするなどしたところ、同じような構図の写真が増えたという実感がありました。
UGCの母数を増やすには、そのようなやり方を地道にしていくのが一番いいと思います。

ぎん/大友 綾宜(おおとも あやぎ)様
よなよな編集部(オウンドメディア運用ユニット)
2014年にヤッホーブルーイングに新卒入社。ビール充填ユニット、通販事業ユニットを経て、オウンドメディア運用ユニットである「よなよな編集部」に所属。2019年より現職。toC向けオウンドメディア「よなよなの里」とSNSを軸としたコンテンツマーケティングを行う。記事コンテンツの企画制作から各SNSチャネル(Twitter,Instagram,Facebook,LINE VOOM)の企画運用に取り組む。

SNSも駆使した1to1コミュニケーションを徹底

シエンプレ:UGCの活用に生かせそうなコンテンツ、投稿がもともとあったというのは強いですね。ちなみに、ユーザーが撮影した画像の使用許可に関することなど、UGCの活用を始めるに当たって懸念されたデジタル・クライシスのリスクはありましたか。

ぎん様:弊社のカスタマーサポートユニット「おもいやり隊」は、TwitterとInstagramで弊社を話題にしてくださった方々に対して「ありがとうございます」といったリプライ、コメントをする「1 to 1コミュニケーション」を実施しています。そうした地道な活動が、すごく大きな基盤になっていますね。
公式アカウントからのコミュニケーションをきっかけに弊社へのロイヤリティが高まったお客様がクラフトビールを買ってくださり、さらにUGCも投稿していただけるケースが非常に多いと感じます。

ケビン様:お客様から公式通販サイトへのUGC掲載の許諾を得る際、ツールを使えば定型の依頼文を一括してお送りすることもできたのですが、そうすると弊社の強みとして積み重ねてきた1to1コミュニケーションと齟齬が発生してしまうことがあります。例えば、1 to 1コミュニケーションと掲載許諾のコミュニケーションで2回「初めまして」と言ったら違和感ありますよね。そのため、すべての依頼文に個別のコメントを添えて許諾をお願いしたのがポイントです。
結果として9割近くという高い許諾率だったので、弊社のコミュニケーションも含めて皆さんに喜んでいただけたのではないかと思います。

シエンプレ:依頼文をお送りしたのは、すでにやり取りしていたユーザーさんの方が多かったのでしょうか。

ケビン様:そうですね。弊社の企画に参加してくださっているお客様の方が、クラフトビールを楽しんでいるUGCを上げてくださることが多いように思います。

シエンプレ:やはり、オウンドメディアやユーザーイベントを通したユーザーとのつながりがあったというのが御社の強みだと感じました。

ケビン様:そうですね。よなよな編集部の企画やおもいやり隊での1 to 1コミュニケーションはもちろんですが、UGCにつながるビールをつくった製造チームやお客様がビールを手に取りやすいように配荷を進める営業・受注・出荷チームなど色々な活動の結果の受賞ですので、今回の賞は全社の活動の結果として頂いたと認識していますね。

ネガティブな反応はほぼゼロ、驚異のエンゲージメント

シエンプレ:御社のオウンドメディアなどには多くのユーザーが登場されていますが、オファーの際などのコミュニケーションをめぐるリスクはありませんか。

ぎん様:投稿キャンペーンなどを通じて皆さんとやり取りをするときも、いわゆる炎上につながるようなネガティブなコミュニケーションに陥ったことはほぼありません。

シエンプレ:カスタマーサポートのチームがしっかり機能されていて、ファンの方々との強固な関係性ができているからこそですね。SNSの運用に関して、何か注意されていることはありますか。

ぎん様:よなよな編集部ではTwitterとInstagram、Facebook、LINE VOOM(旧タイムライン)を運用していますが、毎日何を発信するのかを1カ月先くらいまで決め、社内で共有できるカレンダーを作成しています。
担当者が用意した投稿原稿はよなよな編集部とおもいやり隊、関係するユニットのメンバーが回覧し、表現などをチェックする場も設けているため、今のところSNSが炎上するようなことはなく、安定的に運用できています。

シエンプレ:社内チェックの結果、もともとの表現などが変わることはあるのですか。

ぎん様:結構ありますね。ほぼ毎回、細かいチェックが入りますので。例えば「水曜日のネコ」は発売当初はビールをあまり飲まない女性向けに開発した製品でしたが、様々な方が飲んでくださっているので、あえて「女性に」と入れる必要はないねということになりました。

シエンプレ:なるほど。SNSのチャンネルは、それぞれ異なる目的、方針に沿って運用されているのでしょうか。

ぎん様:目的、方針は大きく変えていません。弊社のブランドパーソナリティは「知的な変わり者」ですが、全チャンネル、どの投稿に触れてもそれを感じられるような運用を心がけ、トーン&マナーも統一できるよう調整しています。
Instagramは女性のユーザーが多いことから、女性目線のクリエイティブを制作するケースも見受けられますが、弊社はそのようなことはしていません。
ただ、Twitterは親近感を覚えてもらいやすくするため、短文でのコミュニケーションを重視しています。最近は投稿を保存される方も多いInstagramには情報をまとめたクリエイティブを投稿するなど、チャンネルに合わせて反応が大きくなりそうな要素を取り入れています。

公式通販サイトへの誘導よりユーザーの思いを優先

シエンプレ:公式通販サイトの売り上げを伸ばすという観点から、UGC活用やオウンドメディアなどでつながったユーザーへの対応で意識されていることはありますか。

ケビン様:公式通販サイトの売り上げに結び付けるのはもちろん大事なことですが、闇雲にそうする必要はないとも思っています。
なぜなら、SNSやメルマガ、オウンドメディアでつながってくださったお客様は「ヤッホーブルーイングの製品を買いたいから」というより、弊社との日々の1to1コミュニケーションなどを通して「面白い会社」「ワクワクする情報を仕入れたい」と思い続けていただいていると感じるからです。
それを前提としたコミュニケーションにより、お客様のファン度が徐々に高まった結果、どこかのタイミングで「買いたい!」と思っていただければいいのかなと考えています。

シエンプレ:濃密なコミュニケーションでつながっている御社とお客様の関係性からは、「ファンクラブの特典として定期的にクラフトビールが届く」というイメージが浮かびます。何が何でも公式通販サイトに誘導しようとしない姿勢も、「必要なときに必要なだけ」というサブスクとの親和性が非常に高いと感じますね。

ぎん様:SNSをフォローしていただいているお客様は、弊社の公式通販サイトは利用されていなくても、コンビニやスーパーで製品を購入してくださっている方が多いので、公式通販サイトのご利用を無理にお勧めしないようにはしています。
ただ、「新しいグラスができました」「公式通販サイトで期間限定のビールを販売します」というときは皆さんに何度もお知らせし、「買いたい」と思っていただいた方がすぐに手を延ばせるようにしておくという環境づくりは心掛けています。

サービスの魅力を高め、ファンとのコミュニケーションを進化

シエンプレ:今後、力を入れていこうとお考えになっている広告宣伝やプロモーション、コミュニケーションの方法があれば、お聞かせください。

ぎん様:弊社は外部からも「ファンとのコミュニケーションが強みだ」とおっしゃっていただくことが多いのですが、新型コロナウイルスの影響でリアルのイベントができなくなっている中、SNSなどオンラインのコミュニケーションにどうしたらリアルと同じくらいの双方向性を持たせられるのかを模索しています。
オンラインは気軽に参加できるのが一番のメリットなので、コロナ禍が収束してリアルのイベントが復活しても需要はなくならないでしょう。だからこそ、オンラインだけでもファンになっていただけるようなプロモーションなどの施策を実現したいですね。

ケビン様:ECもコロナ禍の影響で、より身近な存在になったと思います。ビールだけではなく同梱物も箱も、サブスクの会員特典も、大事なコミュニケーションの入り口だと捉えていますので、何よりもサービスの魅力を高めていくことが大事です。その上で、お客様に楽しんでいただけるコミュニケーションができたらと考えています。
例えば、9種類のクラフトビールを味わえる年1回の「マジ福袋」が、四季折々にあってもいいでしょう。どうしたらもっとワクワクして楽しみやすいサービスを提供できるかを模索していきたいですね。