インタビューInterview

DIGITAL CRISIS RESEARCH INSTITUTE

第1回JDCアワード

【第1回JDCアワード】【大賞受賞インタビュー】丸富製紙株式会社様

「#在庫あります」 トイレ紙買い占め騒動を収束させた倉庫写真

シエンプレ株式会社(以下、シエンプレ):改めて「大賞」受賞、おめでとうございます。

丸富製紙株式会社 マーケティング本部 加藤様(以下、加藤様):ありがとうございます。全く想像していなかったので、ちょっとびっくりしています。

シエンプレ:御社の「(略)当社倉庫には在庫が潤沢にございますので、ご安心ください!今後も通常通り、生産・出荷を行っていく予定です」というツイートが、満場一致で「神対応だった」と評価されました。社会に大きな安心感を与えたことでユーザーの評判も良く、文句なしの受賞です。あのツイートの発案者は、どなたでしょうか。

加藤様:天井まで積まれた倉庫の写真は、もともと新聞社様の依頼で撮影しました。それを見た私の上司が「インスタ映えする」と思いつき、「Twitterの公式アカウントがあるならついでに」という声も上がったので投稿しました。

シエンプレ:ナイスアイデアですね。

加藤様:本当にそう思います。当時は大した反響など予想せずに投稿したのですが、まさかここまで評価していただける日がくるとは。

シエンプレ:この写真を投稿される前、御社の公式アカウントのフォロワー数はわずか14人だったとお聞きしました。投稿後は一夜にして10万人以上にリツイートされ、フォロワー数も1万人を超えましたね。

加藤様:以前の投稿数は月3~5件ほどでした。コーポレートサイトの補助的な媒体として使い始めたに過ぎなかったんです。

シエンプレ:あまり力を入れてらっしゃらなかったんですね。

加藤様:全然。「キャンペーンがあったら上げておこうか」という程度でした。

シエンプレ:加藤さんが、お1人で運用されていたのですか。

加藤様:いいえ。私は当時、別の業務がメインで、広報担当者が運用していました。お互いに通常業務で忙しく、SNSは「取りあえず何か載せておくか」というレベルで運用していたように思います。

「Twitterユーザーの共感力、正義感のおかげ」

シエンプレ:それにしては、すごい反響でしたね。御社のツイートを追うように、マスメディアも一斉に「トイレットペーパーの在庫は十分です」という報道を始めましたから。新型コロナウイルスの感染拡大に乗じたフェイクニュースを一掃してしまうほどの威力を発揮した理由については、どのようにお考えでしょうか。

加藤様:当社の投稿がフェイクニュース収束のきっかけになっていたとしたら、すごくうれしいことだと思います。ただ、今思うと、威力を持った要因はツイートを見て拡散してくださった皆様の共感力や「正しい情報を広めたい」という正義感だったと思えてなりません。

シエンプレ:そのようなお話をうかがうと、心が温かくなりますね。社内の皆様も、同様に振り返っていらっしゃるのですか。

加藤様:このような賞を頂き、初めて冷静に振り返る機会を得ました。フォロワー数が14人だけだったアカウントの投稿を10万人以上の方に拡散していただけたのですから、心の底から皆様のお力によるものだったと思います。

シエンプレ:それほど謙虚に受け止めてくださっているとなれば、フォロワーの皆さんもうれしいでしょうね。ところでTwitter上の成果は、業績にも好影響をもたらしましたか。

加藤様:投稿から1、2カ月間ほどのトイレットペーパーの売れ行きは、増税前を上回る勢いでした。トイレットペーパーという商品は増税や値上げの際に必ず売れるのですが、1人当たりの使用量が増えるわけではありません。買いだめされた分は家庭在庫として残り、その後の売上は低迷してしまうんです。だから今回も、需要自体の底上げにはつながらなかったかもしれません。

シエンプレ:なるほど。長期的な売り上げをならせば安定しているんですね。

加藤様:ただ、コロナ禍で大変な企業様もいらっしゃる中、当社のように生活必需品を製造している企業は皆様に必要とされ続けるのだなと改めて実感した次第です。「これからもしっかりと製品を作り続け、多くのご家庭に確実にお届けできる生産体制を維持しなければならない」という使命感が募りました。

シエンプレ:私たちの暮らしになくてはならない物ですので、本当にありがたいです。今回の投稿は、従来のような「告知型」の内容とは異なりますが、ツイート文を作成する上で意識されたことはありますか。

加藤様:それまでのSNSは補助的な運用でしたし、こちらから「こんなことをします」という半ば一方通行的な投稿内容ばかりでした。今回はコロナ禍で社会全体が大きく揺らいでいた中だっただけに、文章の一言一句にはとても気を遣いました。
私自身、市中の店舗でトイレットペーパーが空になった棚を目にしましたし、職場でも本当に多くのお客様からたくさんのお問い合わせやご注文を受けました。毎日のように不安な声をうかがっていたので、とにかく落ち着いて、安心していただきたいという思いが強かったですね。だから「安心してください。うちは通常通りですよ」というメッセージを、しっかりお伝えしたいと考えていました。

シエンプレ:おっしゃる通り、とてもシンプルで分かりやすい投稿文でした。ストレートな分、メッセージのインパクトが増していて、とても勉強になりました。半面、注目度が急激に高まったので、次の一手に期待されるフォロワーの皆様も多かったのではないでしょうか。

加藤様:正直に申しまして、これほどフォロワー数が伸びたことが恐れ多くて、社内では「SNS運用をストップした方がいいのではないか」という意見も出たんです。「私たちでは手に負えないだろう」ということになり、実際に1カ月ほどストップしたんですよ。世の中のトイレットペーパー買い占め騒動が収束するのを待ち、「ちょっと力を入れてみようか」と再開しました。

まずは自社の認知度向上から 進化するデジタルコミュニケーション

シエンプレ:SNS運用の再開後、デジタルコミュニケーションの戦略、目標に変化は生じましたか。

加藤様:そもそも設定していなかったのですが、たくさんの方々に発信できるようになった状況を好機と捉え、少しずつ整えてきました。
当社は創業から65年(1955年9月設立)で、トイレットペーパーの生産量は業界上位ですが、まだまだ知名度は心もとありません。2020年度は感謝の意味も込めてプレゼントキャンペーンを展開したほか、新商品やSDGsの取り組みなども紹介し、SNSを通じて当社の認知度を高めることを目標にしました。

シエンプレ:なるほど。現在は何人体制でSNSを運用されていますか。

加藤様:3人体制プラス管理者で運用しています。

シエンプレ:かなりスケールアップされましたね。

加藤様:そうですね。でも、全員がそれぞれ本業をこなしながらの兼任体制です。専任は難しいので。

シエンプレ:それぞれの担当領域は決めていらっしゃるのでしょうか。

加藤様:大まかには決めています。キャンペーンや投稿の予定は私の提案を叩き台に、みんなで話し合って決めています。画像や動画はコンテンツ制作が得意なメンバーが担当し、リプライや日頃の運用は、それぞれ時間を調整してできる人がやるということにしていますね。全員でフォローし合いながら運用しています。

シエンプレ:フォローし合える仲間がいると心強いですね。

加藤様:ただ、プロモーションは単発が多いんです。もう少し計画的に展開したいと考えてはいるのですが。

シエンプレ:SNSの炎上対策はどうされていますか。

加藤様:Twitterの反響のすさまじさを体験した者として、炎上だけはしないように気を付けています。ちょっとした投稿でも誰かを傷つけてしまうことがあり得ますので、判断が難しい投稿に対する「いいね」やリプライもメンバー同士で確認してからするようにしています。

シエンプレ:かなり慎重に対応されているんですね。

加藤様:はい。他社様のように、もっとタイムリーに対応すべきかとも思うのですが。

顧客の意見をダイレクトに収集して活用

シエンプレ:SNSを通じ、業務改善に役立ちそうな情報を得られた事例などはありますか。

加藤様:メーカーとしては、製品を使ってくださっている消費者の皆様のご感想を直接お聞きできる機会を増やしたいと思っているのですが、SNSではダイレクトに教えていただけるんですよ。お寄せくださった貴重なご意見を、開発や商談に反映させていただいています。本当にありがたいです。

シエンプレ:そうしたことも踏まえ、理想のデジタルコミュニケーションとはどのようなものだと思われますか。

加藤様:基本的なことかもしれませんが、まずはお互いが尊重し合うことが大切ではないかと思います。コミュニケーションはまず、自分が投げ掛けたい思いを相手が受け止めてくれなければ成立しません。だから、相手がどんな気持ちでいるのか、どのような状況なのかを受け止めてから発信しなければならないでしょう。お互いがきちんと向き合う準備をすれば、間違った解釈や誤解を生まずに済むのではないかとも考えています。

シエンプレ:デジタルコミュニケーションに関し、御社がベンチマークにされている企業様や個人はいらっしゃいますか。

加藤様:今回の受賞をきっかけに、他の受賞企業様の公式アカウントをチェックさせていただくようになりましたね。

シエンプレ:2020年を振り返り、苦労されたことと良かったことは何でしょうか。

加藤様:すごく気を遣いながらSNSを運用するようになりました。「業務効率が悪いな」とも思うのですが、どうしても時間がかかります。良かったことは、何と言ってもたくさんの方に当社のツイートをご覧になっていただけたことですね。

シエンプレ:注目度が高い分、準備に時間が掛かるのは悩ましいところでしょう。とは言え、大勢の方が御社のツイートを待ち望んでいる状況は、本当に素晴らしいことだと思います。

加藤様:ありがとうございます。

LINEアカウントも取得 双方向のやり取りに軸足

シエンプレ:今後、発信に力を入れていきたいSNS媒体はありますか。

加藤様:ありがたいことに、Twitterでは以前は考えられないほどの数のフォロワーの方がついてくださっています。ですから今後もTwitterを軸として、他のSNSに展開していけたら。その1つとしてアカウントを取得したのがLINEです。月間アクティブユーザー数が約8500万人に上るので、顧客の年齢層を限定しない当社の製品に適した媒体だと考えています。

シエンプレ:「2021年は、こういうテーマで発信していきたい」というアイデアがあれば教えていただけますか。

加藤様:2020年はキャンペーン告知に偏った運用でした。もちろん、一定の成果はあったと思いますが、この手の発信は一方通行になりがちです。2021年は、もう少し心が和らぐような日常の出来事もツイートして、双方向のやり取りを楽しめる機会を増やしていきたいと考えています。

シエンプレ:御社の製品などに関してPRされたいことがございましたら、ぜひお聞かせください。

加藤様:普通のトイレットペーパーは、ほとんどが長さ50メートル巻きですが、当社は「5倍巻き」の製品を販売しています。通常の家庭用ホルダーで使えるサイズで、業界トップクラスの長さ。外出自粛でお買い物に出掛けられないときも助かりますし、取り換えの手間も随分と省けます。災害備蓄用としても便利です。

シエンプレ:最後に、御社のファンや消費者の皆様にメッセージをお願いします。

加藤様:「大賞」を頂けたというのは未だに信じられない気持ちですが、投票してくださった皆様のおかげです。改めて、心から感謝の言葉を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。同時に、当社の製品をお客様のお手元まで運んでくださる方々、店舗で販売してくださる方々にも、この場をお借りして心からお礼を申し上げます。
当社はSNS運用を本格的に始めたばかりで、まだまだ手探りの状態ですが、トイレットペーパーを通じて安心や楽しさをお伝えできるように頑張っていきたいと考えています。これからも末永くお付き合いいただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。